

1965年愛知県生れ。ノンフィクション作家。主な著書に『17歳の殺人者』(ワニブックス)『学校的日常を生き抜け』 (教育資料出版会)『美しき少年の理由なき自殺』(メディアファクトリー)など。
2003-07-14 号
藤井 誠二(ノンフィクション作家)
アラーキーこと写真家・荒木経惟さんとのおつきあいについては前にもここで書いたことがありますが、今回は『天才アラーキーの眼を磨け』(平凡社・1500円)をみなさんにお薦めします。

『天才アラーキーの眼を磨け』
この本は和光大学大学の表現学部芸術学科が企画して行われた氏の講演会の記録に、幾度かのインタヴューを追加して編まれた本です。聞き手は、氏の大学時代の同級生である竹原あき子さん。学生時代はいっしょに映画に行っていたという間柄なので、批評家のまわりくどい質問とはちがった、彼女の素朴でストレートで、かつ本質をつくような質問がすごいいいんです。荒木語録を集めた本は最近いくつもでているけれど、この本がぼくはいちばん、生の荒木さんが伝わってくるかんじがすると思います。とくに、妻の陽子さんの死別について質問するところも、仲のよかった同級生だからこそ聞けるニュアンスが含まれています。
こんなテンポのいいやりとりが続いていきます。ちょっと抜粋してみましょう。
−−−朝目覚めて何をする?
バルコニーから青空を撮る。
眼を磨くんだよ。
毎朝、歯を磨くみたいに。
いやー、眼には歯かなー。
−−−ドキュメンタリーって?
これからのドキュメンタリーは何でもない日常のメッセージ、死のメッセージだね。
−−−写真家人生って?
時代がアタシをつくってくれたのかな。
時の流れというものがあって、河があるとしたら、それに流れ流れていたい。泳ぎ方はクロールで泳いで、時々背泳ぎになってみる、そんな人生かな。
−−−シャッターチャンスって何?
胸のトキメキだね。どんな被写体にだってシャッターを押したくなる気持ちが湧くんだ。
そんな気持ちの高ぶりのことだね。(148ページ〜149ページ)
何気ない会話が続いていくのだけど、何をしゃっべっても、なぜか人生訓のように聞こえてしまうのはこの人のスゴイとこなのだとぼくは思います。これは活字だからそう思えるのではなくて、じっさいに仕事をごいっしょしたときにお話ししてもそう思うのです。
何を話題にしても必ずオチがどこか哲学的。
そして、あるリズムというか、方程式のようなものがあることもわかります。それは、荒木さんの持つ、無頼と繊細さ、下品さと高貴さ、誠実さといいかげんさ、潔癖さと大胆さ、ニヒルだけど希望的・・・こんな相反するような個性がそれはそれはものすごいスピードで荒木さんから放出されていくのです。まわりにいる者はあっと言う間にその落差のすごさとスピード感にやられてしまうのです、きっと。
まわりにはいつも女性たちがいっぱいいます。裸を撮ってほしいという女性たちも年齢問わず、ひっきりなしに応募してくるそうです。こんなことを書くと荒木さんに「当たり前のこと書くな!」と怒られそうだけど、とにかくモテる。惚れられる。女性たちが彼を離さない。もちろん、オトコにももてる。その理由はおそらく、そこにあるんじゃないかとぼくは思うのです。いい女や男にもてたきゃ、荒木さんの写真と言葉で、自分の眼を磨くこと!