

1965年愛知県生れ。ノンフィクション作家。主な著書に『17歳の殺人者』(ワニブックス)『学校的日常を生き抜け』 (教育資料出版会)『美しき少年の理由なき自殺』(メディアファクトリー)など。
2002-06-24 号
藤井 誠二(ノンフィクション作家)
20代の前半の頃の私が、荒木さんに会いたい一心でやみくもに会いに行っても、仕事を共にさせていただけるような関係には至らなかったと思う。アイドルに群がるファンと変わりがなく、せいぜいサインをもらうか、握手ぐらいをさせてもらうだけで終わっていただろう。荒木さんの個展には、自作の写真を抱えた若者たちがたくさんやってくる。彼らは荒木さんの姿を見つけると突進してきて、「見てください!」とファイルを荒木さんに押しつけてくる。若者の目は血走っている。そんなとき、たいがい荒木さんは「いま時間がないんだ、悪いね」などとやんわり断られるのだが、私が会いに行ったとしても同じような対応をされていたと思う。一瞬の邂逅だけで気が済む人はいいが、それでは濃密な人間関係に発展しない。
大切なのは、会いたいと願う相手のことをよく知ることだ。私の場合だと、荒木さんの仕事の全容を知ることだ。そして、荒木さんについての評論の類も全部、読む。そうすれば、荒木さんの「世界」がいままでどのように発展してきて、これからどんな方向に広がっていくか、あるいは荒木さんが望んでいるのかが、おぼろげながらわかってくる。もちろん本人じゃないからすべてがわかるわけはないが、これからの方向性の予想を立てることはできる。つまりは、マニアになることなのだ。そのうえで、そこに自分、つまり私がどのようにかむ事ができるかを考えるのだ。荒木さんの「世界」に私がどのように役に立てるか、どうすれば荒木さんは楽しんでくれるか、を考えぬくのである。それを終えてから、はじめて相手に会う算段をする。それが順序というものだ。