

1965年愛知県生れ。ノンフィクション作家。主な著書に『17歳の殺人者』(ワニブックス)『学校的日常を生き抜け』 (教育資料出版会)『美しき少年の理由なき自殺』(メディアファクトリー)など。
2002-05-13 号
藤井 誠二(ノンフィクション作家)
私と荒木さんはひとつの方法を考えた。それは、家で寝ている息子を殺害に向かう夫婦の足どりをできるだけ正確に再現し、同じようになぞろうというものだった。夫婦は家の近所で待ち合わせ、自転車に乗って自宅に向かっていたことが裁判記録でわかっていたから、私たちは東京から埼玉の事件が起きた地域までワゴン車に実物とちかいかたちの自転車を数台乗せて運んだ。そして、夫婦が殺意を高まらせながらペダルをこいだ道を同じようにたどった。夫婦が見た街の風景を追体験しようとわけだ。時期も犯行が行われた月日とほとんど誤差のない時を選んだ。
これはドキュメントともいえるが、荒木さんはフェイク・ドキュメントと名付けた。まず荒木さんと私は夫婦がたどった自宅までのコースを確認したあと、その道々をゆっくりと歩いた。荒木さんは道端に咲く花や朽ちた電柱、壊れかけた民家の塀、家並み、どんよりとした空などにカメラを向けはじめた。
「夫婦は息子を殺そうと決意をしてここを走ったとき、この花を奇麗だなと思ったのかな」 こう荒木さんは独り言のように言いながら、ものすごい集中力で街を切り取っていった。「いいねえ」と自身を納得させるかのようにつぶやきながら、ずんずんと歩んでいく。フィルムが切れると無言でカメラを助手の野村さんに手渡す。と同時に野村さんはフィルムをいれたカメラを荒木さんの手に乗せる。荒木さんは何かにとりつかれてしまったのだろうか。その場の空気が張り裂けそうなぐらい緊張感をはらんでいた。うっかり荒木さんに声をかけようものなら、暴発しそうなかんじだった。(この項続く)