

1965年愛知県生れ。ノンフィクション作家。主な著書に『17歳の殺人者』(ワニブックス)『学校的日常を生き抜け』 (教育資料出版会)『美しき少年の理由なき自殺』(メディアファクトリー)など。
2002-05-06 号
藤井 誠二(ノンフィクション作家)
ともあれ荒木さんと取材を敢行することが決まった。取材する事件とは、埼玉県内で起きた両親による息子殺しである。家庭内暴力をふるったり、定職につかなくてぶらぶらしている息子の将来を案じ、「この子は将来、絶対に人さまに迷惑をかけるだろう。その芽をいまつんでしまうことが親の責任だ」と考えた父親と母親は、牛刀などの凶器を準備したうえで、寝ている息子を襲った。母親は「そんなやり方では死なない」などと凶器を降り下ろす夫に言い、夫婦は協力しあって息子の息の根を止めた。殺害後、夫婦は直ちに警察に連絡、逮捕された。
刑事公判では、いかに息子が荒れ、自分たちが追い詰められたかを夫婦は涙ながらに語った。私は殺された息子の友人らに会い、家の中では見せなかった側面を追ったのだが、そこにはあきらかな断層があった。
その断層を埋めきれなかった夫婦は自らの罪を詫びながらも、どこか自分たちの行為を「仕方がなかった」と正当化しているような気がしてならなかった。その取材成果は、複数の著者といっしょに『息子殺し』(太郎次郎社・共著)という本にまとめた。
私は事件の概要を荒木さんに説明したあと、起訴状(検察の冒頭陳述書)を荒木さんに渡し、「取材当日までに目を通してきてください」とお願いした。荒木さんは、「恐ろしいねえ」と言いながらも、写真家としてその夫婦の狂気を表現できないものかを思案しているようだった。(この項続く)