

1965年愛知県生れ。ノンフィクション作家。主な著書に『17歳の殺人者』(ワニブックス)『学校的日常を生き抜け』 (教育資料出版会)『美しき少年の理由なき自殺』(メディアファクトリー)など。
2002-04-15 号
藤井 誠二(ノンフィクション作家)
日本船舶振興会という、誰でも知っている競艇をしきっている団体がお金を出して、雑誌を作るという。べつに競艇雑誌じゃない。写真を主体にした、ファッション誌と総合誌を足して二で割ったような雑誌だ。『トゥギャザー』というタイトルにするという。かなり大判サイズにするとも聞いた。この業界ならだれもが一度は名を聞いたことがある有名なエディターが総指揮をとるという。スタッフと資金面から考えて、そうとうかっこいい雑誌になることはまちがいなかった。そこに参加する編集者Sさんから私に声がかかった。「事件ルポをやってみないか。でも、写真がメインだから、だれか写真家をきめなきゃいけない」。
私は身に余る光栄を感じつつも、すぐさまアラーキーの名を出した。彼と組むなんて身分不相応だってことはわかっている。相手にされないかもしれない。ヒヨッコとは組まないよ、なんて一蹴されてしまうかもしれない。だけど、ぼくは荒木さんと会いたかった。それもただお顔を拝むだけでなく仕事をいっしょにさせてもらいたかった。だめもとで私はそのSさんに提案した。Sさんは「荒木さんが本格的に事件もののドキュメンタリーを撮ったらすごいものになるぞ」と同意をしてくれた。私はついに憧れの人に会えると胸を高鳴らせて、アポイントが取れる日を待った。
それから数日後、Sさんからとつぜん電話があった。「今日の夜、新宿に来れないかって、荒木さんの事務所が言ってるんだ」。私は予定がはいっていたがズラしてもかまわないものだったので、「もちろん、行きます」と答えた。指定された場所は、アラーキーファンなら知っていて当然の新宿歌舞伎町近くの地下にあるバーだった。(この項続く)