

1965年愛知県生れ。ノンフィクション作家。主な著書に『17歳の殺人者』(ワニブックス)『学校的日常を生き抜け』 (教育資料出版会)『美しき少年の理由なき自殺』(メディアファクトリー)など。
2002-02-25 号
藤井 誠二(ノンフィクション作家)
私が初の連載署名原稿のつもりで書いた文章は、使ってもらえなかった。文章がヘタすぎたのだ。編集者は窮余の策として、アンカーを立てることにした。ルポライターのNさんである。Nさんは快く引き受けてくれた。私のできそこないの原稿を見事なルポに仕立ててくれた。私の原稿はいわゆる「データ原稿」と化したわけだが、私はNさんの文章を読むと悔しいという気持ちはどこへやら消えてしまった。私が取材してきた場面や言葉などをうまく切り取り、メリハリをつけて構成する。読むものを一気に最後まで導くテンポのよさ。私は取材対象に魅力を感じてそこに出かけていくわけだが、それが手練のNさんの手にかかると、私が見てきたことよりも魅力的に思えるのだった。
さらにNさんは私のデータ原稿の不備を指摘してくれた。これこれこういう場面はないか、こんな言葉はなかったか、など、Nさんの指示に従って取材をやり直していると、身勝手流にやっていた私の取材スタイルでは見えなかったものが獲得できるようになった。むろんNさんが期待したものがないときもある。ときにはNさんも私に同行してくれたから、私は彼のインタヴュー方法などを盗むことができた。駆け出しの私にはこのうえない修行になった。データマンとアンカー「分業」システムによって、私はライターとして鍛えられたといっていい。しかし、それは長くは続かなかった。ある「出来事」が起きたのだ。(この項続く)