

1965年愛知県生れ。ノンフィクション作家。主な著書に『17歳の殺人者』(ワニブックス)『学校的日常を生き抜け』 (教育資料出版会)『美しき少年の理由なき自殺』(メディアファクトリー)など。
2001-10-08 号
藤井 誠二(ノンフィクション作家)
名古屋市内の八事という学生街にあるワンルームマンションの一室を事務所( 約1年後に名古屋駅裏に引っ越した) にしたのだが、毎日のように読者からの手紙が届けられた。なかには直接、事務所を訪ねてくる人もおり、対応に追われた。たいがいは「本の内容に共鳴した。何か手伝いたい」というありがたい申し出なのだが、ときおり、半ば家出のようなかっこうで事務所を訪ねてくる中学生や高校生もいた。私や、中心スタッフらはにべもなく追い返すわけにはいかず、事情を聞いたあと、泊めることもあった。しかし、それでは解決にはならない。その子の親に会い、調整に乗り出すこともしばしばだった。私たちはそんなソーシャルワークなどもちろん知らなかったから、行き当たりばったりにやっていった。親に会うと、怒鳴られて追い返されることもあったが、双方の言い分をまとめ、親子で話し合いの場を設定することに懸命になった。
ある人の紹介で中学生の女の子がよく出入りするようになった。彼女は母親とふたり暮らしをしていたが親しくなっていくうちに、家庭の事情や彼女が背負わされている情況を知る事になった。母親は子どもの言う事にはまったく耳を貸さない、ただ怒鳴ったり、叩いたりする人だったから、彼女はいつも近所の家に逃げ込んでいた。しかし、その近所の家でも不幸が待ち受けていた。住人の中年の男が彼女をレイプしようとしたのである。1回ではない。そんなことが彼女の日常だった。私たちは母親に会ったりして、説得を試みたが無駄だった。逆に私を恨むようになり、「そそのかした」「事務所に監禁しているのではないか」などと怒りだしたのである。
不登校状態だった彼女は毎日のように事務所に遊びにきた。ある時、その母親は暴力団関係者に、娘の「奪還」を依頼してしまう。事務所にドスのきいた声で電話がかかってきた。「藤井はいるか!」