

1965年愛知県生れ。ノンフィクション作家。主な著書に『17歳の殺人者』(ワニブックス)『学校的日常を生き抜け』 (教育資料出版会)『美しき少年の理由なき自殺』(メディアファクトリー)など。
2001-09-10 号
藤井 誠二(ノンフィクション作家)
名古屋の17歳の高校生にいきなり「本を書いてくれ」と言ってきた出版社の社長・橋田さんに、私は面食らったが、同時にうれしくもあった。それまで、小学校や中学校で本の感想文や卒業文集しか書いたことしかなかったが、不思議にしり込みすることもなかった。根拠不明の「おれは書くことができるぞ」という自信が最初からあった。橋田さんに400字詰め原稿用紙で200枚は最低でも必要だ、と言われても、無理だとは思わなかった。それより、私には愛知の管理教育や、自分が経験してきた学校の教育についての怒りや疑問が溢れていたから、書くべきことは山のようにあった。それまで書くという行為にまったく無縁だった私が、来る日も来る日も原稿用紙に向かえたのは、そんな書く動機が存在していたからに他ならない。書くという行為に対して、無心になれた。今、書くという行為が仕事になってしまったが、あのような無心状態はもうやってこないだろうと思う。
それと同時に、思いがけなくめぐってきたチャンスによって、17歳で本を書くということによって、私の人生が大きく変わっていく予感がした。中学でおちこぼれのレッテルを貼られるような結果を招き、高校では勉強もスポーツもパっとしない、かといって、女の子と楽しく遊べるようなスキルも持ち合わせていない、まあ、どこにでもいるようなさえない高校生の自分が変身できるかもしれない。それも、実名を挙げて自分が過ごしてきた学校や、他校の批判をするのだ。出したあと社会からどんなリアクションがもたらされるのか、不透明きわまりない。そんな人生の先々の不透明感が当時の私にとっては、魅力の塊だったのだ。
私は授業中、そして自宅で深夜まで原稿を書きつづけた。できあがるたびに東京に郵送し、アドヴァイスを橋田さんからもらった。親は私のやっていることの真意をはかりかねていたのか、はらはらしながらも、大学さえ入ってくれればいいという思いで静観していた。というより、高校生活を原稿書き生活に一変させてしまった、それも親に何の相談もなく勝手にそうしてしまった息子に対して、諦観の境地だったようだ。