

1965年愛知県生れ。ノンフィクション作家。主な著書に『17歳の殺人者』(ワニブックス)『学校的日常を生き抜け』 (教育資料出版会)『美しき少年の理由なき自殺』(メディアファクトリー)など。
2001-04-23 号
藤井 誠二(ノンフィクション作家)
岐阜県大垣市出身の父親は高校を出た後、名古屋の繊維メーカーに就職、がむしゃらに働いてトップ営業マンとなった。一度だけ休日に、父親の職場に連れていかれたことがある。うっすらと私の記憶にあるのは、休日のため電気がついていない職場の中で、父親の机のまわりだけ蛍光灯がついていた。反物が山のように積まれ、鼻を近づけると真新しい布のにおいがした。
父親は体調を崩し、入退院を繰り返した。私は何度か見舞いに行き、屋上でボール遊びをした記憶と、家で療養している父親のふくらはぎを触った感触を覚えているのだが、死の知らせはある日、突然だった。母親やいっしょに暮らしていた祖父や祖母と父親の郷里の寺に事情を教えられぬまま連れていかれ、「お父さん、死んじゃったのよ」と告げられたのである。
私はあまりに急なその現実を理解できなかったが、そこが寺であること、つまり父親の葬儀場に連れて来られたことがわかり、号泣した。私はそこにいるのが嫌で嫌でたまらなくなり、帰りたいとひどいだだをこねた記憶がある。おそらくショックで腹痛か何かを私は訴えたのだろう、母親は私たち兄弟をトイレに連れていった。たしか当時流行っていたおもちゃを買ってもらうことを条件に葬儀の席に座っていたような気がするが、読経の声と、火葬場で親戚から背中を抱かれたこと以外は記憶がない。
父親はスキルス性のガンで、手術後すぐに再発、あっという間に脳にまで転移してしまったという。父親は幼い子どもふたりと最期の別れをする時間もなかった。