

1965年愛知県生れ。ノンフィクション作家。主な著書に『17歳の殺人者』(ワニブックス)『学校的日常を生き抜け』 (教育資料出版会)『美しき少年の理由なき自殺』(メディアファクトリー)など。
2001-04-16 号
藤井 誠二(ノンフィクション作家)
先日、朝日新聞教育欄に連載されている「おやじの背中」という記事のインタビュー依頼を受けた。各界の著名人が——私は著名でも何でもないのだが——自分の父親について語るコーナーである。父親からどんな教育やしつけを受けたか、あるいは受けなかったか、父親との葛藤や仲違いがあったか、父親の生き方はいまの自分に影響を受けているのか等、年頃の子どもを持つ父親が読むと参考になる人気の記事である。しかし、私はそのインタビューを受けることができなかった。
理由はしごく簡単。私が小学校2年のとき、父親は36歳で他界してしまい、ほとんどと言っていいほど記憶にないのである。背中どころか、顔さえおぼろげにしか思い出せない。私がいまでも時々思い出すのは、父親の足である。私と2歳下の弟が寝ている部屋と台所は下半分がガラスの障子で隔てられていて、夜遅くに帰宅して飯を食べている父親の足元が見えた。
いま私はもうすぐ父親が亡くなった年齢に差しかかろうとしているが、「足」のことを母親に話すと、「動物園とか、いろいろ連れていったのに覚えてないの?」と不思議がられた。きっと当時の私は動物園で象やライオンを見てはしゃいでいたのだろうが、楽しい記憶は皆無といっていい。ガラスごしの父親の足は何の感情もともなわない光景として私の記憶に残っている。