

1967年茨城県生まれ。医学ライター。医療関連編集者を経て、フリーランスライターとして独立。循環器、癌全般、消化器、泌尿器、皮膚科、眼科などの医学記事を執筆。海外取材も多い。
2007-09-10 号
高野 雅典(医学ライター)
緑内障(りょくないしょう)という目の病気があることをご存じだろうか。白内障(はくないしょう)という、とても名前が似ている病気もあるので、両方を混同している人もいるかも知れない。
白内障というのは、目の水晶体(レンズ)に濁りが生じて見えにくくなってしまう病気だ。水晶体というのは、目をカメラに例えていうと、まさにレンズに相当する部分だ。この部分が濁ってくると、光が通過しにくくなり、像がぼやけてしまう。「白」という字を書くが、高齢者の白内障の場合、少し黄色みがかった白い色になり濁ってくる。
一方、緑内障というのは、目の奥で光が像を結ぶ部分、網膜に障害が起きて見えにくくなってしまう病気だ。カメラでいうとフィルム、デジカメでいうとCCDセンサーのあたりに異常が起きるのと似ている。つまり、光を感じ取る部分の障害である。

もう少し詳しく言うと、目の奥で光を感じ取っているのは、網膜に数多く分布している視細胞だ。視細胞には、僅かな光でも感じ取る桿状体、強い光に対して反応し色を感じ取っている錐状体があり、片眼には錐状体が約700万、桿状体が1億以上あると言われている。
これらの細胞が光によって刺激されると、網膜の中で、視細胞よりも内側に分布している双極細胞を介して、さらに内側の視神経細胞に伝えられる。視神経細胞は非常に長い軸索(神経線維)を持っており、それら無数の束が目の奥の視神経乳頭(視神経円板)と呼ばれる部分に集約されて太い視神経となり、脳へと伝達される。
しかし、問題となるのは、眼球の内部の圧力(眼圧)が高まると、視神経細胞が障害されて、その数が減っていってしまうことだ。そうなると、当然ながら、目は見えにくくなる。
緑内障という病気の原因は完全には解明されていないが、少なくとも大きな要因の1つとなっているのが、この眼圧の上昇である。
なぜ眼圧が上昇するのかは次回お話しするとして、ここでは、緑内障で視神経細胞が障害されると、どのような事が起きるのかを考えてみたい。一口に「見えにくくなる」といっても、一体どのように見えなくなるかである。
緑内障は、高齢者に多い病気と言われている。若い人がかからないという意味ではないが、その数は少ない。なので、高校生のみなさんにはあまり関係ないと思われるかもしれないが、実は、若い人の視界にも、正常だけれども「見えない点」という部分が存在するのである。「マリオットの盲点」と呼ばれるのが、その部分だ。
簡単な実験をしてみよう。
下の右側の黒丸を左目だけで見てもらいたい。
そして、ゆっくり画面に顔を近づけていってみよう。
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ある近さになったとき、左の黒丸が消えてしまうことに気付くだろう。
これは、前述した視神経の繊維が集合する部分(視神経乳頭)に、視細胞がないために起こる現象だ。視神経乳頭は、眼軸の中心よりも耳側15度ぐらいの位置にあって、この部分では物を見ることが出来ない。
誰にでも「マリオットの盲点」はあるが、それを日常意識することはないだろう。この部分が見えないと気にしてる人はいない。
実は、これと似たようなことが緑内障の患者さんにも起きるのだ。緑内障では、徐々に視野の一部が失われていくが、最初は、だれも自分が緑内障だとは気付かない。
それには理由がある。まず、人には左右2つの目があり、お互いに視野をカバーしあって見えない部分・見えにくい部分を少なくしている。そして2つめに、目はキョロキョロ動かすことができるので、見えにくい部分は、見えやすい部分で補って見ることができてしまうからである。
緑内障は、多くの場合、痛いとか痒いといった感覚はない。徐々に見えにくくなっていることにも、ほとんど気付かない。視野検査をして、はじめて視野の欠損が分かることも多い。
緑内障の怖さの1つに、交通事故や転倒といった問題がある。本人は、そこに何も無い、と思っていてぶつかってしまうのだ。
次回は、緑内障の大きな要因とされる眼圧上昇について考えてみよう。そこには日本人にとってやっかいな事がある。