

1967年茨城県生まれ。医学ライター。医療関連編集者を経て、フリーランスライターとして独立。循環器、癌全般、消化器、泌尿器、皮膚科、眼科などの医学記事を執筆。海外取材も多い。
2007-03-19 号
高野 雅典(医学ライター)
「これは科学的に証明されている、すごいものなんですよ」という言葉を聞いたら、少し疑ってかかったほうがいい時代なのかもしれない。先日も、データー捏造問題が大きな話題になった・・・。
僕自身は自分を「科学の子」だと思っている部分があって、科学的なデーターは大切だと思っているし、科学的な根拠もなしに物事を簡単に信じ込むのは良くないと考えている。けれども、昨今の状況をみると「○○で実証された!!」とか「データーは物語る」とか、そういった言葉が氾濫しすぎているなぁという気もしている。
なぜ、データーを捏造してまで科学的根拠を示そうとするのか? それはおそらく、消費者が科学的なものに弱いからなのだと思う。「弱い」という意味は、1つは「すぐに信じ込む」ということ、もう1つは「数字やデーターの読み方が分からない」ということだ。
「男女10人に試したら、10人中8人が1カ月後に体重3kg減量に成功!!驚異のダイエット達成率80%!!(※商品の効果には個人差があります)」
こんな広告をみて、あなたならどう思うだろうか?
3kgぐらいじゃ大したことない。10人中8人ということは残りの2人は太ったんじゃないのか。1カ月もかからないで2週間でダイエットできないのか・・・・と、色々なことを考えると思う。
けれど、そんな風に「考える」ということが、すでに相手のペースにはまってしまっているのだ。この広告主の本当の狙いは、商品の性能のすごさをアピールすることではない。消費者に、数字やデーターのようなものについて「考えさせる」ことが目的なのだ。消費者が「考える」ということは、商品の印象を頭に刻みつけることに繋がっている。
例えば、もしこのあと他の業者が「うちの製品は1カ月後に5kg減量!!」という広告を出したら、以前「3kg減量じゃ物足りないから駄目だなぁ」と思った人が5kg減量できる商品を買おうとするだろう。ならば、そのあとに7kg減量できるスーパーバージョンを売り出せば、さらに多くの人に買ってもらえることになる。
消費者に「考えさせる」というのは、こういうことなのだ。記憶させて、比較させて、本気にさせるということ・・・。
僕は仕事柄、色々な臨床試験や基礎実験のデーターを眺める。その感覚からすると、ダイエット商品の上記のような広告をみたら、最初の「男女10人に試したら・・」という出だしの部分を見ただけで、もうその先は信用できない。10人程度では何も分かるはずがないし(100人でもまだまだ足りない)、男女を混合している時点で、もう非科学的だ。男性と女性では脂肪の蓄積の特徴が全く異なるからだ。唯一信じられるのは、「※商品の効果には個人差があります」という部分ぐらいのものだ。
偉そうなことを言っているかもしれないが、しかし本当に、10人程度を1カ月ぐらい調査して体重が減ることの証明になる・・・などということは絶対にありえない。
そういう感覚を消費者がもっていないから、業者がこんな広告をするのだろうと思う。
しかし、さらにここで問題なのは、消費者が賢くなったら、業者はその上をいく広告をするようになるということだ。例えば僕のコラムなんかを読んで・・・広告を刷り直し。
「男性500人と女性500人に試したら、850人が12カ月後に体重3kg減量に成功!!驚異のダイエット達成率85%!!(※商品の効果には個人差があります)」。
もうこうなったら、イタチごっこできりがないのである。
そこで、みなさんには、こう考えて欲しいと思う。
例え、上記のような「データー」が全く正直で、本当にウソのない数字だったとしても、そのデーターが必ず自分にあてはまる保証はないということだ。850人が減量できたとしても、自分が残りの150人の1人になる可能性は大いにある。人間だれしも良い方に入りたいから、減量できる850人の1人だと信じたいという心理はあるだろうが、「数字を読む」「データーを読む」ということは、冷徹に数字そのものを見る必要がある。
だから、上記の広告は、「150人が体重減りませんでした。ダイエット失敗率15%!!(※商品の効果には個人差があります)」とも読み取れるだろう。
そして、「85%」とか「15%」という実験結果は、あくまでも1,000人の割合の話であり、自分にとっての結果は「1つしかない」ことも意識しておく必要がある。
つまり、広告主は「1,000人で試したので、あなたも試してみてください(※商品の効果には個人差があります)」と言っているにすぎないのだ。
そして「試す」ということは、すなわち「その商品を買う」ということだから・・・
これらを要約すると、
単純に「あなたも買って下さい(※商品の効果には個人差があります)」
ということになる。
科学的なデーターや科学的な検証は非常に大切なものだが、人を驚かせたり、ワクワクさせたりするためにあるのではない。科学者は、自分の研究のなかで、たしかに驚いたりワクワクしたりするものだが、しかし、そのデーターを人に伝えるときは非常に慎重で、冷静かつ控えめな表現をするものだ。それは「もし間違っていたら」「何らかの偶然に過ぎなかったら」という可能性を常に考えているからだ。もし偶然や間違いを発表してしまったら、科学界のみならず、世の中全体に与える悪影響が大きいことを知っているし、そのことによる損失の大きさを知っている。完全に100%ではない、85%程度の現象を発表していることを自覚し、他の研究者にも追試をして確認して欲しいと頼み込むような気持ちで発表するのである。