

1967年茨城県生まれ。医学ライター。医療関連編集者を経て、フリーランスライターとして独立。循環器、癌全般、消化器、泌尿器、皮膚科、眼科などの医学記事を執筆。海外取材も多い。
2006-09-25 号
高野 雅典(医学ライター)
最近、大学生の健康状態が悪化していると言われている。親元で生活しているあいだは食事に気をつけてくれる家族がいるが、一人暮しになるとファーストフードやコンビニで売られている弁当や外食が増えてしまうことが一因のようだ。昔の大学生なら、一人暮らしで栄養不足になりガリガリ体型になるところだが、今の学生は太ってしまうらしい。
食事ばかりではない。運動の量に関しても高校時代は体育の時間や部活など体を動かす機会が多いが、大学生になると体育の授業数も限られてくるし、体育系の部活に所属する学生も一部になってしまう。そして、専門分野の授業や卒業研究がはじまると、机にかじりつくようになり定期な運動をする学生は少なくなってしまうのだ。
まじめな学生生活でも食事や運動の状況は悪化してしまうものだが、今どきは、遊びの時間もアパートの自室に閉じこもってパソコンやビデオゲーム・・・という状況になってきているらしい。そういう自由な時間も、コンビニのお弁当とモニター画面の凝視で占有されてしまうのだ。
一人暮しを始めたら、食生活も運動も完全に「自己管理」しなければならなくなるが、それが上手に出来る人は、もはや少ないのかも知れない。
人の健康状態は、食事や運動などの生活状況から大きな影響を受ける。そのことを端的に示す例がある。これは皆さんのような若い人を対象とした研究ではないが、40歳以上の人を対象にした研究で、海外移住した日本人と日本在住の人との間で、疾病状況を比較したというものだ。
広島大学の研究者たちが、広島県、ロサンゼルス、ハワイの3つの地域に住む日本人を30年以上に渡って追跡調査し続けている。戦後に移住し、現在ハワイやロサンゼルスに在住している日本人は、ずっと日本に在住している人達と比較すると、糖尿病にかかっている割合が2〜3倍高いことがわかっている。とくに腹部肥満(内臓脂肪肥満)がある人は糖尿病のリスクが高いとのことだ。
つまり、米国本土やハワイに住む日本人の食生活は、より西欧化した食生活であると考えられる。そうした食生活では、同じ日本人であっても肥満や糖尿病が増加するのだ。ハワイに住んでいる日本人も、何世代か前の人達は糖尿病や肥満、高血圧などは少なかったのだそうだ。しかし、時代が進んでハワイ社会がアメリカ本土と同じようになり、アメリカ型の食生活が一般的になると、この時期の世代から肥満や糖尿病が増加してきたのだという。
さて、この研究では40歳以上の人が調査対象であるし、前回まで述べてきたメタボリックシンドロームも、主に40代以上の人に多い(20〜30代の有病率は男性で約10〜20%、女性では0〜数%)。たしかに、肥満から糖尿病や心臓病や脳卒中に至る危険が高いのは、40代、50代、60代という高年齢の人達である。しかし、若い頃に食生活や運動の状況が悪くてやがて肥満や高コレステロール血症などを抱えた場合、40代、50代になってから、すぐに生活を改めて肥満を改善できるかと言ったら、現実的にはかなり難しい。
個人個人の生活習慣は長年かかって作られるものだ。脂っこい食べ物が大好きで、塩分もたっぷり、糖分もたっぷり。そういう嗜好というのは、なかなか変えられるものではない。運動も同じことで、普段運動する習慣のない人が、明日からマラソンを始めると言っても3日も続かない。すぐに、もとの生活にもどってしまうのだ。
大事なことは、若いうちから食事内容や運動の大切さを知って、それを意識した生活を続けることではないだろうか。無理なダイエットは危険なことが多いが、同じように、高カロリーな食事をとって部屋にこもりっきりの生活も大変危険である。
昔はガリガリの体型が「貧しさ」の象徴だったかもしれないが、今の日本(そして多くの先進国と発展途国の一部)では、安く食べられる、手軽に食べられる食品にこそ、余計な脂肪分、塩分、糖分がたっぷり入っている。そういう時代であることを知って食品を選び、少しでも運動量を多くする生活を心がけることが大切だと思う。今の若い人達は、そういう努力をして、新しい時代を生きぬいていかねばならない。