

1967年茨城県生まれ。医学ライター。医療関連編集者を経て、フリーランスライターとして独立。循環器、癌全般、消化器、泌尿器、皮膚科、眼科などの医学記事を執筆。海外取材も多い。
2006-03-20 号
高野 雅典(医学ライター)
一口に血液型といっても、ABO式だけが血液型ではないことはみなさんもご存知だろう。ABO式型以外に有名なのはRh式である。ABO式も、Rh式も、赤血球の表面にある抗原の型の違いから分類する血液型だ。しかし、これらと同じように赤血球抗原型の違いから分類する方法だけでも、ほかにMNSs式、P式、Kidd式、Duffy式、Lewis式、Se式、Diego式、Xg式、Cartwring式・・・・と、あげていったらきりがないほど、いろいろあるのだ。しかも、血液型というのは赤血球だけでなく、白血球,血小板,血清タンパク,酵素などについても、これまた無数ともいえるほどの沢山の分類がある。
血液の成分について、これだけ沢山の分類を作っているのには、1つには人類を遺伝学的に調べる手段として有効と考えられているからだ。ヒト集団間の遺伝的距離を調べたり、病気との関係を調べたりする場合に、もしかしたら何らかの情報を与えてくれるかもしれないという期待がある。また、個人の識別など法医学的な場面でも使われる場合がある。
けれども、研究に携わらない一般の人には、ほとんど無関係なことばかりである。自分の血液がP式では何型か、Lewis式では何型かなんてことは一生知らずに過ごしてしまう。自分の血液型を知っているとしても、ABO式と、Rh式までがいいところであろう。
ABO式やRh式は輸血の場面で重要な意味を持ってくる。他の血液型とちがって、血液の凝集と関係しているからだ。これらの血液型が適合しない輸血をすると血液の凝集が起きて重大な副作用が出る。ABO式血液型が発見されたのは1901年であり、それから最も長い歴史があるが、それは血液の凝集と関係し、輸血の際に気をつけなければならないという理由があったからだと言える。
とはいえ、ABO式やRh式の血液型だって、個人がしっかり覚えておかねばならないものでもなさそうだ。何故なら、医療機関では患者さんが口頭で「自分は○○型だ」と言ったことを信用するわけではないからだ。自分の血液型を間違えて覚えている人というのも、実はかなりいるのだそうで、輸血・献血などを行う前に、これらの血液型を医療者がチェックするのが当然のことなのだ。
ここで、ABO式血液型の違いについて再確認してみよう。赤血球の表面には、A抗原とか、B抗原と呼ばれる抗原(凝集原)があると習ったことがあると思う。A抗原に対しては、輸血された血漿中に抗A抗体(α凝集素)があると反応して凝集が起きる。一方、B抗原に対しては輸血中の抗B抗体(β凝集素)が反応すると凝集が起きる。

どの血液型も、赤血球表面にH物質と呼ばれる成分がついた糖鎖が100〜200万個結合しているが、A型ではH物質にA抗原が連結した糖鎖があり、B型ではH物質にB抗原が連結した糖鎖がある。AB型では、その両方があり、O型の赤血球表面にはどちらもなくH物質のみである。

A抗原が連結したH物質、B抗原が連結したH物質、あるいは、どちらも連結していないH物質の様子は、この図のような感じになる。
H物質にA抗原やB抗原を連結するのは、特定の酵素の働きによるが、これは遺伝子によって決められており、その遺伝子は第9番染色体に存在することが分かっている。Aの遺伝子は、H物質にA抗原を連結する酵素を作り出し、Bの遺伝子は、H物質にB抗原を連結させる酵素を作り出すのである。
A型の人はAの遺伝子、B型の人はBの遺伝子をもつ。AB型の人はAとBの遺伝子を両方もっているので、A抗原もB抗原も赤血球表面に結合されている。O型の人は、これらの遺伝子を持たない(正確には、第9番染色体の該当因子が酵素を作り出す機能のない遺伝子に変異していると言われている)ので、A抗原もB抗原も結合していない。
このなかで注目すべきは、遺伝子によって作り出される酵素によって赤血球表面の抗原が決まるという「多段階のプロセス」だ。ABO式血液型は、A型、B型、AB型、O型の4種類だけと思っている人が多いが、実は、この多段階のプロセスのどこかに違いがあるために、A抗原が弱いA型とか、B抗原が弱いB型、AやBの遺伝子をもっているのにH物質を作り出す遺伝子がないためにO型と判定されてしまう型(ボンベイ型)といった様々な亜型が多数存在するのだ。また、血球を作り出す骨髄の造血組織の移植手術を受けた人では血液型が変わるといった事例もある。
これだけ複雑な機構によって作り出されるABO式血液型なので、それがたった4種類に分類されて、人の性格や相性と関連すると捉えてしまって良いのかという疑問が起きてくる。今回は、凝集の話だけで長くなってしまったので、ABO式血液型が性格と関係するように見える理由については、次回考察してみよう。