

1967年茨城県生まれ。医学ライター。医療関連編集者を経て、フリーランスライターとして独立。循環器、癌全般、消化器、泌尿器、皮膚科、眼科などの医学記事を執筆。海外取材も多い。
2005-11-21 号
高野 雅典(医学ライター)
日本国内にはCT装置が約8000台あり、それは米国が保有する台数の2倍、ヨーロッパの国々を全て合わせたぐらいの台数になるという。
どうして、こんなに日本のCT台数が増えたのか、理由は色々あるようだ。1つには、CT装置が備わっている病院は患者さんからの信頼が持たれやすい。逆に「CT検査ができない」というと、何となくしっかりと検査してもらえないというイメージがある。そうすると、病院も経営という問題があるので、沢山の患者さんに来てもらうのに必要な設備として、CTを完備することになる。
もう1つには、日本では健康保険制度があるため、CT検査を負担額が少なく受けることができる。費用が比較的安ければ検査を受けることを選択する患者さんも多くなるし、医師の側も患者さんの金銭的負担を考えずに検査をすることができる。
こういう土壌があれば、やはり「CT検査ぐらいは出来る病院のほうがいい」という考え方が広まるのだろうと思う。日本では、大病院だけでなく、比較的小規模な病院にもCT装置が導入されていることがめずらしくない。
もう1つ、おもしろい話を聞いたことがある。日本人の医師は、欧米の医師に比べて、レントゲンやCTの診断画像の読影能力(検査画像を読み取る能力のこと)が高いというのだ。診断画像を見たことがある人ならば知っていると思うが、全ては白と黒が入り混じった「模様」のような画像だ。綺麗なカラー画像ではない。あくまでも、体内を通過してきたX線の強弱がフィルムに写し撮られるだけなので、基本的に白黒画像である。しかも、照射するX線の強さによって、写り込む体内の様子もかなり変わる。
モヤモヤとした影が、腫瘍なのか、本来の体内臓器なのか、そういったことを見分けるには、相当な訓練が必要とされている。元来の日本人の細やかな観察眼のおかげなのか、検査画像を読み取る能力は世界的に高いレベルにあるのだという。これも、日本でCTが重宝がられる理由の1つなのかも知れない。
いずれにしても、僕らは、近所の病院で、あまり高くない検査費用で、読影能力の高い医師によってCT検査を受けることができるのだから、かなり恵まれた環境にいることになる。このような国は、世界の中でも稀なのだ。
ただ、前回も述べたように、CT装置が多いがために沢山の検査がおこなわれ、診断による被曝が広まっている可能性がある。医療被曝について新聞などで繰り返し報道されるのは、やはり、ほんの少しの放射線でも発癌の原因になるのではないか、と心配する一般の人の気持ちがあるからだと思う。
それでは、専門家は、一体どんな意見をもっているのだろうか。通常のレントゲンのように低線量の被曝で発癌の心配はほとんどないという。一方、CTはレントゲン以上に被曝するが、それでも、安全を見込んだ照射量であるという。おおかたの意見は、「レントゲンやCT検査による被曝で発癌の心配は少ない」というものだ。
ただし、彼ら専門家の意見には、必ず注意事項がつく。「心配は少ないが、無用な被曝をしないよう、検査は必要最小限に留める必要がある」というものだ。これでは何か不安になる。「心配は少ない」が「最小限に留める必要がある」。最小限とはいったいどのくらいなのか?
こういう場合に頼りになるのは、やはり科学的なデータなのだが、当然ながら、人の体に放射線をあてて発癌するかどうかを調べることなどは出来ない。癌患者さんの発病の原因が「検査」だったかどうかも、方法的に調べるすべがない。動物実験や培養細胞を使った実験では、癌化の危険性が高まる照射量は分かっていても、この照射量なら絶対に発癌しないという最小量は分かっていないという。
結局、「最小限に留める必要がある」とは、むしろ1回の検査の照射量のことではなくて、検査そのものの回数を減らすことのようだ。治療に必要な検査を避けてしまうのは、大切な治療機会を失うことになる。しかし、無暗に検査を繰り返すことは避けなくてはならない。その判断は、やはり医師に委ねられているのが現状だ。そして、レントゲンやCT検査では、放射線の照射量を調節する必要があるが、これも放射線科の医師・放射線技師の正確な操作を期待するほかない。
CT装置は、現在も進化を続けており、患者さんの体の周囲をX線管やX線検出器が高速回転しながら撮影するマルチスライスCTやヘリカルCTと呼ばれる装置が登場している。現在、最も撮影速度が速く、高精度な画像が作り出せる装置は、1回転が1秒以下の速度で、1回の回転あたり体を0.5ミリ毎の厚さで断面撮影した画像が64枚一気に出力されるという。つまり、息を数秒間止めて撮影するうちに、何百枚という体の断面画像が撮影できるのだ。そして、こういった機種は、放射線被曝量が少なくなるようコンピュータ制御で微調整をする機能が備わっているという。だが、いくら被曝量を抑えているといっても、撮影枚数が増えれば、被曝量も増加傾向にあることに変わりはない。さすがに、こんなに高性能なCTが必要なのかと疑問をもつ医師もいるが、科学技術の進歩は止まらない。
どんどん性能を増す装置をどう使うか、安全に利用しきれるのか・・・・最終的には、全て人間の知恵と理性的な判断にかかっているとしか言えないようなのだ。