

1967年茨城県生まれ。医学ライター。医療関連編集者を経て、フリーランスライターとして独立。循環器、癌全般、消化器、泌尿器、皮膚科、眼科などの医学記事を執筆。海外取材も多い。
2005-08-29 号
高野 雅典(医学ライター)
皮膚科の疾患は、病名が確定した後の治療法についてはさまざまな情報があるが、意外にも、皮膚の発疹(ほっしん)を的確に診断するノウハウに関しては明文化された情報が少ないのだという。前々回から書いている茨城県石岡市の開業医の先生、この先生が提唱している発疹の分類法は、とてもシンプルで素人の僕らにも分かりやすいので、今回はその一部を紹介しよう。
例えば皮膚に発疹が出る場合、右腕だけとかお腹の部分だけとか体の一部のみに出るようなものと、全身にくまなく出るようなものがある。この違いには、それなりの理由があるという。体の一部だけに発疹が出来るのは、大半は、体の外から発疹の要因が攻撃してきた場合だという。例えば、虫さされや、ウルシのような植物が原因のかぶれ、金属アレルギーの発疹、水虫などだ。体のどの部分に発疹が分布しているか、いくつくらいの発疹があるかを、よく見れば原因がつかめることが多い。

左:体の外側から要因が作用する(発疹は一部だけに生じる)
右:体の中に入った要因が内側から作用する(発疹は全身に生じてくる)
(イラスト作成:Kappa)
一方、全身に広く分布するような発疹は、多くの場合、発疹の要因が口や皮膚などから体の中に入り込み、それが体内から皮膚に作用した結果だという。風疹や麻疹(はしか)、じんま疹、薬が原因の薬疹などがこれに当てはまる。病気をおこすウイルス、アレルギーを起こすアレルゲン、副作用をおこす薬などが体内に入り込み、これが体の内側から皮膚に作用する。そういう場合には、発疹の要因となるものが血流などを伝うので、体のいろいろな場所に、左右対称に、発疹が出てくることが多い。逆に、こういった要因なのに、発疹が体の一部に限定されるような場合には、何か特別な仕組みが働いていることを考えなければならい。
例えば、帯状疱疹という皮膚疾患がある。この疾患は、要因となるウイルスが体内に入ることで発症し、強い痛みを伴う紅斑(赤い発疹)や水疱(水状の液体が含まれる発疹)が生じる。体内から作用するので全身に広く発疹が現れそうなものだが、実は帯状疱疹ウイルスが活動するときには神経を伝って移動するので、その神経が分布する部分だけに発疹が現れる。こういった特別な例もあるにはある。
いずれにしても、発疹の要因が皮膚の外側から作用する、あるいは体内に入って内側から作用するという区分はとてもシンプルで分かりやすい。これ以外に、もう1つの区分がある。それは、外部から要因がやってくるのではなく、患者さんの体内に発疹を作り出すような仕組みが存在する場合だ。これは、まだ原因や仕組みがよく分かっていない全身性の病気が多い。この場合も、特別なものを除くと、大半は発疹が全身に広く分布する。発疹の要因は特定できないが、皮膚以外の症状にも目を向けると病名が分かってくることが多いという。

体の内部にあるブラックボックスが発疹を作り出す
(イラスト作成:Kappa)
このように、石岡の開業医の先生は発疹を大きく3つに区分し、さらに帯状疱疹のような例外的な発疹も扱えるよう、3つの区分それぞれを3つに区分して、3×3で9種類に区分した。
皮膚科の先生たちの頭の中には、当然ながら発疹の要因に対するイメージはあると思うのだが、ウイルス、微生物、植物、寄生虫、化学物質、光線、ハウスダスト、さまざまなアレルゲン、患者さん自身が抱える原因不明の病気・・・沢山の要因が作り出す何百・何千という発疹を1つ1つ別々に扱っていたのでは混乱するだろう。だから、結局の所は、頭のなかで何らかの分類をしているに違いない。しかし、そういったノウハウを明確に述べている人は少ない。
石岡の先生の3×3の区分は、まるでコロンブスの卵のようだ。それを見た人は「なるほど」と感心するか、「そんなことは分かっていた」と一笑に付すだろう。しかし、石岡の先生によると、これまでの皮膚科の教科書には無数の病名は書かれていても、それらをシンプルに区分し、診療に役立つような形で説明した書物・論文などは皆無だという。
最後に、前回書いた僕自身の発疹の事例を、石岡の先生の3×3の区分で考えてみると、次のようになる。
僕の場合は、突然の高熱から2日ぐらいで、全身にくまなく発疹が現れて、やがて熱が引いてゆくのに伴って発疹も消えていった。もし体の外側から要因が作用したなら、その要因は顔、首、お腹、両手両足・・・とにかく全身に触れなくてはならない。とすると、例えば、風呂に入れる入浴剤でかぶれたか・・・僕は入浴剤を使わないので、それはありえない。石鹸もいつも使っているものなので要因とは考えにくい。
次に考えられるのは、要因が体内に入って内側から作用した可能性だが、その前に、第三の「体内にもともと要因が存在する」可能性を否定しておこう。もし、僕の体の中に何らかの原因不明の病気があったなら、全身の発疹は一生の間に何回か繰り返しているのが自然だ。しかし、その時の発疹の前にも、後にも、そういった事実はない。何しろ、あまりに突然の出来事に気が動転した程なのだから。
したがって、やはり、要因が体内に入って内側から作用したということになる。内科の新米の先生が心配したように、食中毒や薬の副作用の可能性が考えられるが、前回も述べたように、疑わしい食べ物も食べていないし、風邪薬なども飲んでいない。とすると、ヒントは「高い熱」だろう。風邪のウイルスか何かが体内に入ったから、免疫系や神経系が作動して、全身性の炎症が強まった。その証拠の1つが、高い熱だ。免疫系の活動があまりに高くなって、それに皮膚組織が反応して発疹が生じた・・・そんな感じではないだろうか。
素人判断はよくないが、一応は病院にもかかって、その一方で、自分自身に何が起きたのかを考えるのは悪いことではないだろう。あの時は、痒み止めの塗り薬しかもらえず、何となくがっかりしたが、今思うと、診察してくれた先生の頭のなかには、「体内に入ったウイルスが免疫系に駆逐されれば、免疫系の活動もおさまって、発疹も自然に消える」という判断があったのだろう。そう思えば、あえて強力な治療を行わず、自然な治癒にまかせてくれた先生のその判断に感謝する気持ちになる。