

1967年茨城県生まれ。医学ライター。医療関連編集者を経て、フリーランスライターとして独立。循環器、癌全般、消化器、泌尿器、皮膚科、眼科などの医学記事を執筆。海外取材も多い。
2005-05-30 号
高野 雅典(医学ライター)
昨年の今頃、米国の消化器病学会(DDW)で発見した「飲む小腸カメラ」だが、その後1年経過し、今年のDDWでは、この新しい技術に関する実に沢山の臨床試験・臨床経験が報告された。
「臨床(clinical)」という言葉が頭につくのは、実際の患者さんを対象とした試験や経験であることを意味する。つまり、日本国内では"未来の技術"として報道されていた飲むカメラが、海外では、すでに病院で使用されているということだ。しかも、米国のFDAが、飲む小腸カメラの使用を承認したのは4年前、2001年のことなのだ。
今回も報道関係者向けに、この小型カメラのモックアップ(模造品)サンプルが配られた。

左側は新しく登場した食道用カメラ(Pill Cam ESO)、右側はかつてM2Aと名付けられていた小腸用カメラ(Pill Cam SB)。
昨年のコラムでは、このカメラの商品名は「M2A(mouth to anus:口から肛門まで)」だと書いた。しかし、M2Aは小腸検査用として承認されていたので、「口から肛門まで」という名称はちょっと不正確かもしれない。1年のあいだに、このイスラエルの企業は、小腸カメラ以外に、食道カメラも販売開始にこぎつけた。そのせいだと思うが、M2Aの商品名は「Pill Cam SB(錠剤カメラ 小腸用)」に変わり、新しく登場した食道カメラは「Pill Cam ESO(錠剤カメラ 食道用)」と名付けられた。
2つの小型カメラの違いを見てみよう。小腸カメラのほうは、毎秒2枚のカラー画像を撮影して、そのデータを体外の受信機に送信する。検査には8時間くらいを要するので、その間、患者さんはベルトに取りつけた小型の受信機を携行して過ごす。この小型カメラは小腸を通過するあいだに約5万枚の画像を撮影する性能がある。一方、食道カメラのほうは、短い食道通過時間内に充分な検査画像を送信できるよう、カプセルの前後に1つずつ計2つのカメラが内蔵されている。毎秒14枚のカラー画像を撮影・送信する性能をもっている。カプセルが食道を通過し終え、検査が終了する約20分のあいだに約2千6百枚の画像を撮影するという。
食道カメラのほうは、昨年から臨床で使われ始めたとのことで、実際の使用経験に基づく報告はこれからだが、小腸カメラのほうは、すでに使用され初めてから4年近くが経過する。今回の学会では数十件におよぶ臨床研究結果が報告された。
昨年も述べたように、小腸というのは、消化管のなかでも最も検査しにくい臓器だ。小腸の内壁を詳細に調べるためには、内視鏡型のカメラを口から挿入する必要があるが、胃の内視鏡カメラと比べると、検査の難易度は高い。その理由の1つとして、お腹の中で小腸が意外にフリーに動いてしまうことが挙げられる。胃や十二指腸を通過して、小腸に内視鏡を挿入するのは、靴下を手で押さえないで履くような難しさがある。小腸が内視鏡で押されて、なかなか挿入できないのだ。
今まで、消化管の癌のなかで、小腸癌は比較的少ない癌だと言われてきた。しかし、小腸癌の発見率が低いのは、そもそも検査が困難だからかも知れない。今回の学会で、小腸カメラを使った興味深い研究結果が報告された。対象患者は原因不明の消化管出血がある275人であり、それほど大人数ではないが、この患者さんたちを、小腸カメラや、従来の小腸内視鏡、CTといった検査法で調べたところ、小腸カメラで22人に小腸癌が発見された。しかし、この22人のうち、CTで小腸癌が確認可能だったのは10人のみという結果だった。そして、内視鏡検査でも、8人(22人のうち内視鏡検査が実施されていた人数)のうち7人しか小腸癌が確認できなかった。つまり、小腸カメラは、いくつかある検査方法のなかで、最も癌を見逃す率が低かったということになる。もちろん、この研究結果1つで、小腸カメラが最高に良いと結論するわけにはいかないが、少なくとも、かなり有望な検査方法だということは分かる。
ただ、飲むカメラには弱点もある。それは、内視鏡カメラのように何度も往復させて「怪しい箇所」をしっかりと観察できないこと。それから、内視鏡カメラでは、付属する装置を使って、怪しい箇所のサンプルを採取したり、小さな癌であれば、そのまま切除してしまうこともできる。しかし、飲むカメラでは、今のところこういう芸当は出来ない。
逆に、飲むカメラが優れている点は、検査をする人に高度な技術が要らないことだ。それから、気軽にといったら言い過ぎだが、患者さん自身も、内視鏡カメラを身体に挿入される苦痛がない。医師も患者も検査の大変さが軽減され、もっと頻繁に検査が実施できるようになると期待される。
飲むカメラを使った診断法の信頼性(正しく病変を発見できるか、安全性は大丈夫か)は、これからさらに臨床の現場で検証されていかねばならない。ただ、飲むカメラの使用は、おそらく今後、どんどん広がってゆくと予想される。それ自体でサンプルを採取できないとしても、画像上で「怪しい箇所」を発見してから、本格的に内視鏡カメラなどの他の検査法で精査・サンプル採取するというステップが踏めるからだ。
現在、「Pill Cam COLON(錠剤カメラ 大腸用)」の認可もFDAに申請中とのことだ。このロードマップがうまくゆけば、飲む大腸カメラも2006年頃には臨床使用が開始されるという。
Pill Camシリーズの1粒の大きさは「ちょっと大きめのビタミン剤」と表現されているが、それは欧米の大型のビタミン剤の話で、日本人が飲み込むには、かなり抵抗のある大きさだ。カメラなどの精密機器の分野では、日本のメーカーも世界レベルにひけを取らないので、いずれ、もっと小型化した飲むカメラを開発してくれるのではないかと思う。