

1967年茨城県生まれ。医学ライター。医療関連編集者を経て、フリーランスライターとして独立。循環器、癌全般、消化器、泌尿器、皮膚科、眼科などの医学記事を執筆。海外取材も多い。
2005-02-07 号
高野 雅典(医学ライター)
喫煙による健康への悪影響については、たくさんの情報があるので、みなさんも充分に承知していると思う。けれども、世の中を見渡してみると、タバコを吸っている人の数は依然として多い。
どんなにタバコに関する知識が少ない人でも、それが癌のリスクになることは知っているだろう。癌の危険性にさらされる体の部位はさまざまだ。口腔、咽頭、食道、胃、肺、肝臓、膵臓、腎臓、脳・・・。タバコ=肺癌と思っている人は、少し考えを広げた方がよいだろう。タバコの煙に含まれる成分は肺から血液中に吸収され、それが血流にのって全身にくまなく送り届けられる。喫煙の影響は全身に及ぶのだ。
喫煙による長期の影響は癌だけではない。その成分が血流にのって全身に浸透していくということは、そもそも血管自体にダメージを与えることも意味している。血管は、血流量などの状況変化に応じて、内径が広がったり狭まったりする機能を持っている。つまり、ただの管(くだ)なのではなく、組織に適切に酸素や栄養分を届けるために、生き物のように運動する器官なのである。長期の喫煙は、この血管の運動機能を低下させてしまう。
誰でも年齢が進むと血管は動きが鈍くなり、硬くなってゆく。これが「動脈硬化」と呼ばれるものだが、喫煙は動脈硬化を進めてしまい、いわゆる「血管年齢」を実際の年齢よりも高くしてしまう。
動脈硬化が進むと、それにつれて心筋梗塞などの心臓病、脳卒中、腎臓病などの危険性が高くなってくることが知られている。
癌や心臓病だけでも、喫煙が与える悪影響は大きなものだが、他にも、呼吸機能障害、白内障、難聴、知的活動低下、睡眠障害、免疫機能低下、骨粗鬆症、勃起不全との関係も報告されている。また、肩こりや首のこりの原因になったり、皮膚のしわが増えるなど美容にも大きな影響を与えることが知られている(日本医師会雑誌116:327, 1996より)。
タバコの煙には、約4000種類の化学物質が含まれ、そのうち200種類は毒物、43種類は発癌物質だと言われる。猛毒であるダイオキシンやカドミウムも含まれている。・・・これだけの物を血液中に吸収して全身に浸透させるなら、さまざまな病気が起きてくることも不思議ではないだろう。
前置きが長くなってしまったが、今回のコラムの本題はここからである。
タバコの危険性については、ネット検索でもいやというほど情報が出てくる。社会的にも、その危険性が認識されて、分煙が進められたり、喫煙できる場所が限られたり、喫煙者が追い込まれてゆく状況にあるのだが、それでもやはり、喫煙している人の数はまだまだ多い。
喫煙する人のなかにもタバコを止めたいと思っている人はいるが、「禁煙」は現実問題として非常に難しい。なかには意志の力で禁煙に成功する人もいるが、それでも、永久に止められる保証はない。禁煙しても、再度、タバコに手を出してしまうということが何回でも起こるのだ。タバコの習慣性というのは驚くほど強力であり、例えば、禁煙に成功して5年間経過しても、それでも「吸いたい」という欲求は完全には無くならないという。つまり、「禁煙」という行為は、つねに「吸いたい」欲求との戦いが必要なのである。
これでは、喫煙者がタバコから離れて喫煙人口が減るということは、なかなか難しい。
以前、あるコメディアンがTV番組のなかで、こんなことを言っていた。「自分が若いとき、タバコに手を出す前に、タバコを吸い始めたらどうなるか、10年後、20年後にどれだけ苦しむかを教えられていたら、自分はタバコを吸わなかっただろう」
たしかに、その通りなのである。先ほども述べたように、一度タバコが習慣化してしまったら、その呪縛から逃れることは本当に難しい。例え、禁煙に成功したとしても、もとからタバコを吸っていない人と同じように暮らすことはできない。常に「タバコを吸いたい」「いや、吸っては行けない」という問答を頭のなかで繰り返し続けなくてはならないのだ。人は誰しも、仕事や勉強など頑張らなければならないことが目の前に沢山ある。しかし、禁煙中の人というのは、それらのことに加えて「タバコを我慢する」という作業を日常的に頭の中で行わなくてはならない。その作業は禁煙後5年経過しても、まだ続くのである。
だから、タバコの害から逃れるとしたら、最初からタバコに手を出さないことが一番よいのである。
来週はタバコの習慣性・中毒がどのようなものかをもう少し詳しく見てみよう。