

1967年茨城県生まれ。医学ライター。医療関連編集者を経て、フリーランスライターとして独立。循環器、癌全般、消化器、泌尿器、皮膚科、眼科などの医学記事を執筆。海外取材も多い。
2004-11-29 号
高野 雅典(医学ライター)
AIDS(エイズ)という病気が、はじめて日本で話題になったのは僕が高校生のころだったと記憶している。外国で流行し始めた謎の性病として、テレビや雑誌で、さかんに報道された。その頃の一般報道の内容は、人類を滅亡させる恐怖の病気といった論調が多かったように思う。「世紀末の時期には病気が大流行する」という歴史的なジンクスになぞらえて、エイズは20世紀末の病とも言われた。
80年代後半から90年代にかけて、こういうセンセーショナルな報道を見てきた僕らの世代というのは、エイズに対する恐怖心がとりわけ強いのかもしれない。それから約20年経過した現在、エイズが登場した時期の混乱はおさまった。この病気から身を守るには一体どうすればよいかという知識も一般に広まり、医療の側でも患者を管理する方法が確立されてきている。
ただ気がかりなのは、日本のなかの現在のエイズの状況だ。80年代後半の大騒ぎと恐怖は沈静化したが、実際には、日本のエイズ患者の数は増加の一途をたどっている。エイズのような感染症は、強力な抑止力がなければ当然のごとく増加していく。病院施設が把握できているHIV感染者やエイズ患者の数は90年をさかいに等比級数的なカーブを描いて上昇しており、2004年には、薬害エイズの患者を除いて全国で9,000人を越えた。

厚生労働省エイズ動向委員会資料から改変
最近では10代・20代のHIV感染者がとくに増えているという報告もあり、まだ未発見の感染者が多数いる可能性もある。・・・そう考えると、今後も日本の患者数は急激に増えてゆく可能性がある。
エイズはかつて、ごく特定の人々だけがかかる病気だと考えられてきた。しかし、今、医学の世界で言われていることは、こうしたエイズにかかりやすい生活をしている人々の感染は、抑止が働いて増加速度が鈍っている。むしろ、エイズに対する意識が薄い人々の間で、じわじわと新しい感染者が増えていっているということだ。
12月1日は世界エイズデーということで、ここ数日、たくさんの報道がなされている。「HIV感染」と「エイズ」の違いは分かりますか? というようなことが盛んに言われているが、これは、日本におけるHIV感染者とエイズを発症した患者とが、どちらもかなりの数になりつつあることが関係しているのだと思う。一昔前までは、HIVに感染することを防御し、そこから待避することが当面の課題だったが、これからの日本は、HIV感染者やエイズ患者が一般に存在するという前提で、エイズ予防・撲滅という課題に立ち向かわなければならない。
僕は、これまでエイズに関して原稿を書くような仕事をしたことがなく、実は、エイズに関して全く知識がない。しかし、HIVに感染した患者さんが病院でどのような治療を受けているのか、どのくらいの割合でエイズ発症に至るのか、エイズを発症してからの生存期間はどのくらいなのか。あるいは、長期に治療を続けるために、どれくらいのコストがかかるのか。そういった具体的な情報は、もっと必要なのではないかと考えている。一般の健康な人々も、これらの具体的な情報を知ることで、エイズという病気の本当の状況・怖さが分かるのだと思う。
来月の9日から静岡で日本エイズ学会が開催される。僕は、初めてなのだが、この学会に参加してみようと考えている。もし、そこで興味深い発見があれば、また、ここで紹介してみたいと考えている。