

1967年茨城県生まれ。医学ライター。医療関連編集者を経て、フリーランスライターとして独立。循環器、癌全般、消化器、泌尿器、皮膚科、眼科などの医学記事を執筆。海外取材も多い。
2004-10-11 号
高野 雅典(医学ライター)
おじいさん、おばあさんの背中や腰が曲がってくるのは自然なことというイメージもあるかもしれないが、実際はそうでもない。もし、背中や腰が曲がってくる原因が背骨の椎体骨折によるものだとすれば、その人の体の骨は内部がかなりスカスカになってきていて、第二、第三の骨折が起きる可能性が高いのだ。
背骨の椎体骨折があるかどうかは、外側から見ただけでは分からず、やはりレントゲン写真を撮って見るしかない。骨折というと相当な痛みがありそうなものだが、この場合、一時的に腰や背骨が痛かったけど、しばららくしたら痛みが大分良くなったので放っておいた、という事が少なくない。お年寄りは、強い腰痛だったとしか認識していない場合があるのだ。骨折が起きる瞬間というのも、何か重たい物を持ち上げようとしたわけでもなく、ちょっと屈んで軽い物を取ろうとした瞬間だったということが案外多い。
骨がスカスカになる骨粗鬆症。歳をとると誰でも骨量が減ってくるので、「それを病気だと言えるのか」という人もいるが、骨粗鬆症に続いて起きてくる骨折は、最終的には生命にも関わる問題となる。どういうことかというと、骨粗鬆症で骨折しやすい部位の1つに、大腿骨の頸部(太ももの大きな骨の上側、つまり股間の付け根あたりの部分)がある。この部分を骨折するのは、おもに転んで尻餅をついた瞬間だ。若い人は、運動能力が高いので、ちょっとしたことでは転ばないし、転んで尻餅をついても筋肉や脂肪がたくさん付いているので骨にダメージを受けにくい。ところが、お年寄りは、運動能力が低下している、視力が低下しているなどの理由で転びやすく、骨をプロテクトする軟部組織も減っている。そして、骨量も減って脆くなっているので、尻餅をついた瞬間に大腿骨の頸部に骨折が起きてしまうのだ。
ところで、この大腿骨の頸部を骨折してしまうと、それが寝たきりの要因となる。そして、寝たきりの状態になると、その後の生存率というのは著しく低くなってしまうことが報告されている。背中や腰の湾曲も、腹部臓器を圧迫するので悪影響が考えられるし、「痛み」に気付かない人が多いといったが、逆に痛みがひどく(骨折した部分だけでなく、神経的に関連している他の部分に痛みが出る場合もある)、それが原因でほとんど身動きが取れず、寝たきりとなってしまう場合もある。
いずれにしても、骨は体を支える大切な臓器だ。その骨に骨折が起きやすい状態が作られているなら、これは病気と捉えて、予防や治療をする必要があるだろう。
みなさんのお母さんの世代ならば、「骨粗鬆症」という病名を新聞や雑誌を読んで知っているかも知れない。女性の場合、閉経期の前後あたりから骨量がだんだんと減ってくる。その度合いは男性よりも大きいので、骨粗鬆症になる危険性が女性の場合には数倍高いのだ。

「骨粗鬆症」と呼ぶ状態は、腰椎の骨密度(X線を応用した測定器で測ることが出来る指標)が診断基準として使われている。女性なら、若い女性の骨密度の平均値を基準として、その70%以下にまで骨密度が低下すると「骨粗鬆症」と診断される。女性の骨粗鬆症の割合は、40代では数%だが、80歳を超えると50%近くになる。つまり、80歳以上のおばあさんの約半分は骨粗鬆症だということだ。
骨量を維持するのに必要な栄養素は、まず第一にカルシウムであるが、それだけでは十分ではない。小腸からのカルシウムの吸収を高めたり、骨形成を促進したりするためにはビタミンDが重要である。他にビタミンKも重要だと言われている。日本では、カルシウム強化をうたった乳製品などが多数売られているが、欧米では、牛乳やオレンジジュースにビタミンDを添加した商品をよく見かける。
もちろん、カルシウムやビタミンDを摂取する、軽度に体を動かす(ただしお年寄りが激しく体を動かしすぎで骨折しては元も子もない)、日光に当たるなどは、骨量を維持するために必要なことだが、これだけのことをしても、骨量がだんだん減ってくる状態にストップをかけることは容易ではないという。
やはり、定期的に骨密度の検査を受けて、いわゆる「骨粗鬆症」の状態になる手前から薬による治療を開始することが求められる。骨粗鬆症治療薬には、ホルモンから作られたものや、ビタミンDを活性化したものなど様々な種類があるが、まれに副作用もあるので、医師と十分話し合って、どのような治療をするのが良いのかを決めてゆく必要がある。
女性の閉経期の問題は、様々な症状・病気があって社会的関心も高い。けれども、骨粗鬆症に関しては「自分の骨はまだ大丈夫」と過信している人が多いのが現状だ。骨は体の外から見ることは出来ないし、骨折が起きるまでは痛みもない。silent disease(静かな・沈黙した病気)という言葉があるが、骨粗鬆症はまさにこれである。「とてもよいサプリメントを飲んでいるから大丈夫」というのは、あまり合理的な考え方ではないだろう。実際に骨の状態がどうなのか、検査を受ける必要があると言えそうだ。また、1回の検査では、その時点での骨密度しか分からない。半年後とか1年後に再度検査を受けることで、骨密度が低下しているのかどうかが分かってくるのである。そのため、年齢に応じた期間で定期的に検査を受けることが大切になる。
背骨の椎体は一度潰れてしまうと、現在、それを元に戻す手段は無いに等しい。お母さんやおばあちゃんが若々しく元気でいられるよう(そして、男性だって骨粗鬆症にならないわけではない)、みなさんが正しい知識をもってアドバイスしてあげることが必要だと思う。
http://http://www.jpof.or.jp/
(骨粗鬆症財団のHP:「Q & A」のコーナーには骨粗鬆症の予防や治療について詳しい解説がある)