

1967年茨城県生まれ。医学ライター。医療関連編集者を経て、フリーランスライターとして独立。循環器、癌全般、消化器、泌尿器、皮膚科、眼科などの医学記事を執筆。海外取材も多い。
2004-08-02 号
高野 雅典(医学ライター)
これでも、思ったよりも高得点だった。もっともっと悪い診断結果になるかと思ったのだが・・・。ただし、1つ1つの項目をみると、「睡眠習慣」「日中のスッキリ性」「寝起き」などの状態が、かなり良くない。
これは先週紹介した「眠り相談ソフト」の僕自身の診断結果だ。まず、どんな問題点があるのか、診断結果を見てほしい。

「寝つき」「睡眠の質」「睡眠の正常性」という項目は比較的良いのだが、「睡眠習慣」をはじめとして、「日中のスッキリ性」「寝起き」が良くない。つまり、僕は、一度眠りについてしまえば、睡眠の状態そのものは悪くないのだが、生活リズムが重要な「睡眠習慣」が悪く、それに伴って、寝起きが悪く日中もスッキリしないということらしい。
もちろん、こういう状態であることは、先週も述べた通り十分自覚していたのではあるが、やはり点数化されてみると「切実だよな」という気持ちになる。眠りの健康度42点というのは、おそらく各項目の点数の平均値なのだと思うが、いかに「睡眠習慣」や「日中のスッキリ性」が全体の点数を引き下げているかが分かった。
さて、「睡眠習慣」「日中のスッキリ性」「寝起き」を、どうやって改善するかなのだが、もちろん、不規則な生活を改めれば問題は解決する。しかし、仕事が絡んでいる問題だから、「明日から早寝早起きします」と簡単には言えない。
この「眠り相談ソフト」は、個々の問題点に対する改善方法を丁寧に解説してくれるのだが、解説を読んでいて気づいたことがある。それは、例え不規則になりがちな生活であっても、なるべくリズミカルな「睡眠習慣」を保つ努力が必要ということだ。どうせ不規則だからといって、何も手を打たないと、先週述べたような非常に苦しい状態にまで落ちていってしまう。それから、リズムを保つよう努力するためには、ただ単に「寝る」とか「起きる」とかを意志でコントロールしようとしても駄目だということだ。どんな点に気を付ければよいか、その知識が必要になる。
例えば、寝起きを良くして、日中すっきりするためには、朝(あるいは、起きた時)の行動が重要だということだ。もちろん、しっかりと睡眠を取るにこしたことはないのだが、それが駄目だとしても、工夫次第で、「ぼんやり」「やる気がでない」という状態を改善することが出来るという。まず第一に、強い光を浴びること。これについては、一体何ルクスの光を浴びるとよいかということまで書かれていたが、ようするに太陽光を浴びるのが一番良い。例え曇りの日でも、屋外では高照度光が得られるという。・・・光が必要な理由は、以前書いたように、メラトニンの分泌抑制が関係している。日中に太陽の光を浴びることは、活動時間のメラトニンの分泌を抑えるのに役立つし、夕方から夜にかけて分泌されるメラトニン量を増やし、良好な入眠にも役立つそうだ。
そればかりではない。寝起きのときに軽いストレッチ運動をすると、体の深部の体温を上昇させるのに役立ち、目覚めを良くすることが出来るという。軽いストレッチというのは、あくびや背伸びといった自然な反射行動も含まれるという。さらに、歯磨きや洗顔といった皮膚からの感覚刺激も、交感神経を活性化させ、脳を目覚めモードにするのに役立つ。そして、朝食も重要だ。顎の筋肉の運動が、目覚めを良くする。それから、炭水化物を摂取することで脳にエネルギーを送ることが出来るという。目覚めを良くするためのおすすめの朝食メニューなども、このソフトの中で紹介されている。ポイントとしては、炭水化物(とくにブドウ糖)、ビタミン類、カフェイン(あるいは唐辛子なのどの刺激物)を含むメニューを朝に摂ると良いそうだ。
僕にとっては意外なことだったが、目覚めを良くするためには、歯磨きや洗顔だけでなく、服装を含めて身支度することも効果的であるという。また、人との会話や挨拶といったことも、交感神経を活性化させ、やる気を起こさせることにつながる。・・・挨拶などは、社会生活ではあたりまえのことだが、こんなことも「生理学的に」重要だということを、再認識させられた。
さて、目覚めが良くなったとしても、僕の場合は、極度の睡眠不足がある。これをどうすればよいか。
「眠いから2〜3時間だけ寝る」というやり方は、案外良くないようだ。どういうことかというと、寝るべきではない時間帯に長時間眠ってしまうと、体にとっては、それが「夜」の代わりになってしまい、ますますリズムが崩れてしまうのだ。例えば、会社員や学生の人が、一週間のなかで月曜から金曜まで、昼間忙しく働いたり勉強したりして、夜の睡眠時間が少なかったとする。自分は「睡眠不足だ」と思い、土日の間はゴロゴロとして、不規則に昼寝をしてしまう。本人は「土日のあいだ、ゆっくり休んだ」というつもりでいるが、いざ月曜になると「体がだるい」「眠い」という結果になる。これは、土日のあいだの長時間の昼寝が、睡眠のリズムを壊しているせいなのだという。
睡眠不足を解消するには、急激に沢山寝ても意味がない。ゆっくりと、少しずつ、睡眠時間を増やして、リズムを崩さないように心がけることが重要だという。まず、起きる時間を固定して、寝る時間を1時間だけ早めるようにする。これを1週間続ける必要がある。これは、睡眠時間が1時間増えた、そのリズムに体が慣れるまで、およそ1週間かかるからだ。また、一気に2時間、3時間と時間を増やしても、体の側はそれを受け止めきれず、リズムのなかに組み込むことが難しいからだという。
僕の大学時代の生物学の恩師が、「人間は環境の動物だ」とよく言っていた。これは、僕にとって、これまで色々なことに気づかせてくれた大切な言葉で、噛みしめれば噛みしめるほど、新しいことを教えてくれる言葉なのだが、おそらく大きく2つの意味があるだろうと思っている。1つは、人間は、とても環境に影響を受けやすい動物だということ。もう1つは、人間は環境を作り変える能力が高い動物だということ。・・・睡眠のリズムについて言えば、人間は、太陽の動きから独立するくらい、高度に環境をコントロールできる。照明をつかい、遮光カーテンをつかい、タイムテーブルを自由にあやつり、自分なりの生活リズムを作り出すことが出来る。しかし、そうやって自分が作り出した環境が、体や脳の活動に適しているかどうかは分からない。案外、様々な要素がバラバラに昼と夜のリズムを刻むようになってしまうかもしれない。それは、極端に言えば、身の破滅につながるかも知れない。
睡眠の研究は、まだまだ始まったばかりだと言えるだろう。けれども、睡眠と目覚めのリズムが、血圧、体温、ホルモン分泌、栄養分の代謝、脳の情報処理など、様々な体内の働きのリズムとリンクしていることが分かってきている。より元気に、活発に、より多くのことを成し遂げてゆくには、結局のところ、どうしても、このリズムを適切に守ってゆかねばならない。例え人工的な要素が多く、多忙な現代社会の生活のなかでもだ。そのためには、体の中で何が起きているのかを理解して、それらがなるべく正しいリズムを刻めるよう、意識的に生活する必要があるのだと思う。