

1967年茨城県生まれ。医学ライター。医療関連編集者を経て、フリーランスライターとして独立。循環器、癌全般、消化器、泌尿器、皮膚科、眼科などの医学記事を執筆。海外取材も多い。
2004-07-26 号
高野 雅典(医学ライター)
人間の体内時計がきざむ生体リズムは何故25時間なのか? それは火星の自転周期が25時間だからで,実は人間の祖先は火星からやってきたからだ・・・なんて言う人がいるが,それはちょっと信じがたい。
これは単なる僕自身の予想だが,昼と夜との割合というのはいつでも12時間+12時間なのではなくて,季節によってかわる。となると,原始時代の人類が昼間に活動する都合から言うと,夏場は長時間活動し,冬場は短時間活動する,それを補うために必要な睡眠時間というのも変化するかも知れない。こんな風に1日のサイクルというものが振れ幅をもっているわけだから,当然,24時間のなかに全てをおさめてきっちりと機械のように生活するわけにはいかないのだ。おそらく,そんな理由で25時間という,ちょっと多めの幅をとったリズムが作られているのではないだろうかと,思うのだ。
とはいえ,原始時代の頃は,太陽が昇ってくるのと同時に,周りの動物たちが動き始め,気温や湿度,明るさも変わり始める。そんな風にして五感に感じる「朝」という環境が作られると,25時間のリズムが修正されて,そこから1日がはじまる。原始時代の人類は,夏場であれ,冬場であれ,環境変化のリズムに合わせて無理なく自然に活動していたことだろう。
ところが,現代人の生活というのは,ややこしい。文明のおかげで24時間いつでも太陽の変わりになる照明を灯しておくことができる。温度や湿度もエアコンで一定に保つことができる。周囲の人たちの生活リズムも実に様々だ。昼間に働く人,夜中に働く人。平日が休みの人,休み無く毎日働いている人・・・。みんなで一斉に活動し始めて,一斉に眠りに入るというような集団生活は少なくなっている。
今回は,僕自身の話をする予定だった。
物書きの仕事をする人というのは,どうしても特殊な生活パターンになることが多い。全ての人がそうだとは言わないが,それでも,仲間内の話を聞いていると,夜型や早朝型や,不定期型・・・と,それぞれ独特なパターンをもっている。僕自身も,起きていられるだけ起き続けて原稿を書き,仕上がってから寝る,あるいは,もう起きていられないと限界になったら寝る・・・というような不定型のパターンを長年続けてきた。もちろん,仕事が忙しくなれば忙しくなるほど,そういうパターンになる。そうすると,だいたい24時間は起き続けていて,そして数時間寝るという結果になる。ちょっと考えてみれば分かることだが,これはもう,昼も夜もない生活である。1日という区切り,1日という概念も曖昧だ。
こんな生活を長年続けていると,色々とおかしなことが出てくる。例えば,海外出張に出ても時差ボケにかからなくなる。もともと,生活リズムが狂っているので少々の時差は気にならないのだ。それよりも,意志の力で眠気を振り切ることが可能になってしまう。
あるときまでは,このような自分に妙な自信を持っていた。自分は「いざとなれば人並みはずれて長時間働き続け,大変な仕事も乗り切れるのだ」と,そんな風に思い込んでいた。ところが,2年くらい前からだろうか。その能力(と思っていたもの)が徐々に崩れ始めたのだ。どうなったかと言うと,まず,海外に出たときの時差ボケが,他の人よりも強く出るようになってしまった。眠くなったときの程度が尋常ではないし,数日たって他の人が「やっと時差ボケが解消してきましたよ」と言い出す時期にも,まだ自分の時差ボケは治らない。もちろん,意志の力で振り切ろうとはしているのだが,仕事にも支障が出るくらいの強い眠気が襲ってくるようになった。そのころから,自分はなんとなく昔とは違ってきたと気づいた。
さらに,決定的だったのは,普段日本にいて仕事をしているときの支障だった。かつては,昼夜のリズムが狂っていても,こなすべき仕事のリズム通りに寝起きすることが出来ていたわけだが,いつのまにか,仕事中にも「どうしようもなく眠い」と感じることが増えてきて,仕事に対する意欲も湧かなくなってきてしまったのだ。それどころか,実際,仕事の効率が落ちて,普段書ける分量の半分も書けなくなった。これではいけないと思い,周囲の人のアドバイスなども聞きながら「眠くなったら無理せずに2〜3時間だけ眠って,頭をリフレッシュさせる」という方法を実行するようにした。この方法はしばらくは有効だった。当時は「良い工夫」だと思っていたのだが,実はこれ,専門的には,ますます状態を悪化させる行動であることを後から知った。
最終的にどんな状態になったかというと,リフレッシュのつもりの睡眠が,だんだん2〜3時間ではすまなくなり,普通に5〜6時間寝るようになってしまった。疲れがたまっているときなどは,そのまま10数時間眠り続けてしまうこともあった。ところが,これだけ寝ても,まだ眠いのである。だから,起きていられる時間がどんどん短縮していった。ほとんど,5〜6時間寝て,5〜6時間働くというサイクル。これでは,時間的にも仕事の効率が下がるのは当然である。こうなった時点で,僕はやっと「これは睡眠障害なのかもしれない」と思うようになった。
さいわいなことに,1年のうちで仕事がそれほどハードではない時期というのがある。そういう時期には,なるべく夜に寝て昼に起きて仕事をする,普通の人の生活サイクルに戻すようにした。しかし,そう簡単に普通のリズムが取り戻せるわけではなかった。どんなに頑張ってみても,昼間に眠くなって眠ってしまったり,夜寝るべきなのに眠れなかったり,ということが起きる。
この仕事は,医学学会の取材に基づくものが多いから,学会が沢山開催される春から夏にかけてが一つの山場になる。当然,この時期が「睡眠障害」の悪化時期でもある。でも,今年は,あるWebサイトのおかげで,睡眠障害をさほど悪化させずに乗り切ることが出来た。そのサイトは,30項目くらいの質問に答えることで,自分の睡眠の状態を診断してくれて,一体なにが問題なのか,それを解決するにはどんな方法があるのかを,教えてくれるというものだ。しかも,睡眠のメカニズムについても簡単に説明してくれるので,自分の問題点と解決法の結びつき方について,実に納得がいく。理屈っぽい僕のような人間にとっては,とても親切なサイトだと思う。
ただ,このサイトをここで紹介するのは,どうしようかと迷った。というのも,実はこのサイト,とある電機メーカーが運営するサイトなのである。睡眠の診断をしてもらい,アドバイスをしてもらうためには,無料とはいえ会員になって,ときどき広告メールを受け取らねばならないのだ・・・。しかし,みなさんにも紹介しようと決意したのは,やはり,そのアドバイスの内容の濃さと,実際に僕自身が,このサイトのアドバイスのおかげで,長年の悩みが随分と良くなったということが理由だ。国立精神・神経センターの白川修一郎先生という方が監修なさっているとのことだが,本当に,僕自身,睡眠の専門家に診察してもらったかのような満足感を味わうことが出来た。やはり,単純な知識としてよりも,自分自身の問題として,人に相談にのってもらい,色々なことを教えられるというのは,大きな意味があるのだなと思った。・・・例えそれが,ネット上のプログラムだとしても・・・。ということで,以下のサイトを紹介しようと思う。みなさんも,これから受験勉強などで,睡眠時間の取り方について悩むことがあるかもしれない。そんなときの参考になることを願って・・・。
http://wwwt.mew.co.jp/wellness/club/dynamic/nemuri/soudan/index.jsp?f=1
(松下電工「眠り相談ソフト」)
睡眠の話は今回で終わりにしようと思ったのだが,自分自身の診断結果から,どんなことが分かったのか,あるいは,今まで睡眠に関して思い違いをしていたポイントは何だったのか,などなど,書きたいことがまだいくつか残っている。なので,来週もう1回だけ,睡眠の話につき合って頂きたいと思う。僕の場合,眠気を解消するために2〜3時間だけ眠るようにした・・・,これが意外なことに,睡眠のリズムを壊し,睡眠の質を低下させることにつながっていたのである。