

1967年茨城県生まれ。医学ライター。医療関連編集者を経て、フリーランスライターとして独立。循環器、癌全般、消化器、泌尿器、皮膚科、眼科などの医学記事を執筆。海外取材も多い。
2004-07-19 号
高野 雅典(医学ライター)
今回は生活・睡眠リズムと脳の関係について述べよう。夜になって睡眠を引き起こす、もう1つの仕組みがある。
みなさんはメラトニンというホルモンがあることを聞いたことがあるだろうか。このホルモンを製剤化した商品は海外から個人輸入などで手に入れることが出来るので、数年前から大分話題になっていた。自然な睡眠を引き起こすとか、色々と体に良いことがあると宣伝されている。しかし、メラトニンというのは、本来、そうやって薬として体の外から体内に取り込むものではない。脳内にある松果体という部分から自然に分泌されるのが本来のメラトニンである。
メラトニンの役割は最近になって色々と分かってきた。体の様々な臓器にメラトニンの受容体があり、血液中のメラトニンの濃度が高くなると、それを受容体が感受して、様々な臓器が夜のモードに切り替わるのだ。(メラトニンを商品化したものは、この部分が宣伝文句に結びついているわけだが・・・)
脳内にもメラトニンの受容体があって、メラトニンが多くなってくると、交感神経よりも副交感神経が強く働くようになり、体はリラックスした状態になる。さらにメラトニンが多くなると睡眠中枢が「眠り」を引き起こす。メラトニンは体中に「夜ですよ」と伝えるチャイム音の役割をしていると思えばいいだろう。
ところで、メラトニンはどうして「夜」が分かるのだろうか。これには、実は「目」が関わっている。目が昼間の明るい光を受け取ると、その刺激は視神経を通って大脳に伝わる。このとき、視交叉上核と呼ばれる部分が反応して、上顎神経節を経由して、松果体に刺激が伝わる。

松果体は、この刺激が伝わってくると「メラトニンの分泌」を抑制する。逆に、この刺激が伝わってこないときは、盛んにメラトニンを分泌し、これが血液中に流れ込む。という仕組みで、明るいときは血液中のメラトニンが少なく、暗いときはメラトニンが多くなるというわけである。おおもとは目に入ってくる光の刺激なのだから、目は「物を見る」ためだけにあるのではなく、体中に「夜と昼」を教える役割も果たしていると言えそうだ。
ところで、光を感じる目とメラトニンの役割には、もう1つ大切なことがある。それは「体内時計(生体時計)」を修正するという役割だ。生体時計というのは、やや曖昧な概念だが、人間は例え外界と遮断された部屋に閉じこめられたとしても、あるリズムで寝たり起きたりという生活リズムを刻むことができる。太陽の光がない環境でも、それが不規則な環境でも、やはりあるリズムを刻む。このようなリズムを作り出しているのが生体時計だと言われている。
ところが、最近の研究では、人間の生体時計のリズムは24時間ではなくて、約25時間だということが分かってきた。つまり、外界から遮断された環境で暮らすと、約25時間周期で生活リズムを刻むようになるのである。なぜ24時間ではなくて25時間なのか・・・その理由は分からないが、このちょっと間延びしたリズムを修正するのが、光を感じる目とメラトニンのもう1つの役割なのだ。先ほどの視交叉上核にはメラトニンの受容体があって、松果体から分泌されたメラトニンのフィードバックがかかるように出来ている。
朝起きて、眠気がさめないようなときは、太陽の光を浴びると良い。これは、目とメラトニンの関係から言っても科学的に正しそうだ。逆に、夕方や夜には、あまり強い光を浴びるのは良くないだろう。明るい光の下では、体もリラックスせずに、眠りにつくのも難しくなってしまう。最近のヨーロッパの研究では、TVやパソコンのモニターの光を目が感受すると、メラトニンの分泌を妨げるのではないかと言われている。これは本当かどうか、まだ確かではないのだが・・・。
来週は、仕事の影響で夜型、不規則な睡眠、海外に行って時差ボケと、睡眠に関してかなり深刻な状態にある僕自身(笑)の体験から、睡眠の大切さについて述べたいと思う。最近、健全な睡眠を保つことに関して、とても良いWebサイトを発見したので、それも併せて紹介しよう。