

1967年茨城県生まれ。医学ライター。医療関連編集者を経て、フリーランスライターとして独立。循環器、癌全般、消化器、泌尿器、皮膚科、眼科などの医学記事を執筆。海外取材も多い。
2004-07-12 号
高野 雅典(医学ライター)
僕らが生物として生きていて「1日のリズム」を感じるのは、なんといっても睡眠と目覚めだろう。昼と夜という地球環境のリズムに合わせて、僕らの体も睡眠と目覚めというリズムを刻んでいる。
睡眠と目覚めのリズムは、ある程度までは自分の意志でコントロールできるとはいえ、しかし、いつまでも起き続けていることはできないし、逆に、いつまでも寝続けていることもできない。これは一体なぜなのだろうか。
「睡眠」という現象は誰もが体験する、ごくありふれた現象なのだが、一体なぜ睡眠が必要なのか、どのくらい眠ればよいのか、ということになると、それに正しく答えられるような結論は出ていないのだという。眠る理由は「疲れをとるため」、眠るべき時間は「人並み」ということで、僕らは一応の納得をしなければならないのだろうか・・・。
睡眠の謎が沢山ある理由は、それを客観的に研究できるようになったのが、ごく最近のことだからと言えるかも知れない。寝た時間と起きた時間を計るだけなら、昔ながらの「時計」あれば十分かもしれないが、それだけでは詳しい研究にはならないだろう。睡眠という現象を客観的に定義することから始めなければならない。布団に入る、うとうとする、眠ったような気がするが、覚めているような気もする、やがて深い眠りにつく・・・。こういった状態を「客観的に」記録し、分析するためには、脳波計や筋電計、それらの長時間記録といったエレクトロニクス技術が必要になる。それが本格的に使えるようになってきたのが70〜80年代頃からなのである。
睡眠のコントロールに「脳」が関わっていることは、みなさんも知っているだろう。その脳の働きを研究する技術として、コンピュータ技術の基礎でもあるエレクトロニクスが必要だったことは、何となく興味深いではないか。そして、現在では、コンピュータの発展に負けず劣らず、脳の研究も発展を続けている。
脳波計や筋電計を使った睡眠の研究は、めざましい成果を上げた。睡眠という現象は、8時間とか10時間つづく一様な、のっぺりとした現象ではなくて、脳波計・筋電計の上では、いくつものタイプの睡眠があることが分かってきた。
例えば、さきほどの「うとうとする」という状態。つまり、これから眠りに入っていくという状態のなかで脳波は次々に変化することが分かっている。浅い眠りから深い眠りに入っていくまでの過程を、次の脳波の模式図で見てほしい。

入眠期から軽睡眠・深睡眠期までの段階は、ノンレム睡眠と呼ばれている状態だ。大脳の活動が低下している状態と考えられており、脳波の周波数は徐々に低くなっていく。ノンレム睡眠は、「大脳の睡眠」とも呼ばれている。このとき、体の筋肉は比較的緊張した状態にあるのだが、起こそうとしてもなかなか目覚めは悪い。
ところが、睡眠のタイプというのは、こればかりでない。大脳が活発化し、逆に体の筋肉はリラックスしている睡眠もあり、これはレム睡眠と呼ばれている。レム(REM)とは、rapid eye movementの略で、このタイプの睡眠のあいだは眼球がすばやく動くという特徴があることから、こう名付けられている。レム睡眠中には夢を見ていることが多いと言われる。これは大脳が活動している証拠だろう。
レム睡眠とノンレム睡眠は、一晩のあいだに交互に繰り返される。平均して5〜6回の繰り返しがあるという。ただ、不思議なことに、レム睡眠の割合は大人では少なく(全睡眠時間の20%ぐらい)、赤ちゃんのころは多い(全睡眠時間の50%ぐらい)のだという。その理由はまだ不明だが、脳などの中枢神経系の発育に必要なのではないかと言われていたり、昼間に大脳が学習した様々な情報を処理・固定・消去するのに必要なのではないかと言われたりしている。実際、昼間の体験量・学習量が多いと、その夜のレム睡眠の時間は長くなるという。
他にも、レム睡眠とノンレム睡眠の違いがある。ノンレム睡眠中には、成長ホルモンの分泌が盛んになったり、栄養分(蛋白)の同化が盛んになったり、免疫機能が活発化することなどが分かっている。
こうしてみると、レム睡眠とノンレム睡眠は、それぞれが、脳と体にとって大切な役割をもっているようだ。
つまり、睡眠というのは、最初に述べたように「疲れをとる」ためだけのものではなくて、脳(中枢神経系)や体が成長するためにとても大切な現象と言えるのではないだろうか。僕らが眠っている間に、脳と体は重要な仕事をこなしているのかもしれない・・・そう思うと、「睡眠」という現象を、僕らはもっと大切にしなければならないという気がする。
ところで、1日の生活リズムと睡眠の関わりについては、脳波とは違った角度から解明されてきている。次回は、そのことについて述べようと思う。