

1967年茨城県生まれ。医学ライター。医療関連編集者を経て、フリーランスライターとして独立。循環器、癌全般、消化器、泌尿器、皮膚科、眼科などの医学記事を執筆。海外取材も多い。
2004-07-05 号
高野 雅典(医学ライター)
今回は、ちょっと息抜き的なお話。みなさんのコンピュータは、おそらくWindowsですよね? ところで、お医者さんが使っているコンピュータは、意外にMac(マック)が多いってご存じですか? という話題である。
僕は医者ではないが、マック・ユーザーである・・・と発言した段階で「おまえもマカーか」と白眼視されそうだが・・・、そう何を隠そう往年のマカーである。でも、ここで「マックは良い」などと布教活動はしないので安心して頂きたい。
なんの話か、さっぱり分からないという読者もおられることだろう。マックというのは、コンピュータの一種であって、ハンバーガー屋さんのことではない。目印はリンゴ・マーク、マックというのは略称で、略さずに言うと「マッキントッシュ」。リンゴの品種で「McIntosh(マッキントッシュ)」というものがあるそうで、そこから名付けられたらしい。Apple Computerというカリフォルニアの会社1社が、ハードとその中身であるOS(基本ソフト)を企画し、商品化している。Windowsのように様々なメーカーがハードを作り、OSはまた別な会社が作っていることと比べると、かなり特殊なコンピュータだ。
人から聞いた話なので、正確かどうかは分からないが、世界のパーソナルコンピュータ・ユーザの中で、マックを使っている人口というのは4%ぐらいだという。100人中4人・・・、なかなかのマイノリティだ。日本では、意外にマック人口が多く、僕の感覚だと10%くらいはいるのではないか・・・。まぁ、いずれにしても少数民族である。少数民族の常として、マックユーザーは「不理解」「差別」「侮蔑」といった精神的迫害を受けることも少なくない(大げさと思われるかも知れないが、とくに仕事上では実際にそういう場面に出くわすことがある)。マックユーザーを卑下して「マカー」などと呼ぶことも、その延長線上にある(僕の場合、自分自身でそう言っているのだから世話はないが・・)。
しかし、医学ライターとして、あちこち飛び回っていると、医者のなかにはマックユーザーが多いことに気づく。Apple社にユーザー登録するときに「医療関係者」として登録しておくと、医者向けの様々なニュースレター、割引券付きメールなどが届くことからも、Apple社が医者を重要なユーザー層として認識していることが伺える。
どうして、医者のあいだにマックユーザーが多いのかを考えてみると、たとえば、Apple社は、医者のように大量のデータ、画像などを扱う職業の人には高性能なマックが適しているのだ、というようなことを宣伝しているが、それはおそらく違うだろう。むしろ、医者のあいだにマックユーザーが多いのは、大学時代に最初に触れたコンピュータがマックだったことが理由のような気がする。10数年前までは、科学データを示すグラフや、分子構造などの図を作成するのに、マックが便利なパソコンだった。もちろん大学の研究室には、どこもNEC製のPC9801シリーズがずらっと並んでいたのだが、その片隅には、かならずマックが1〜2台は置いてあり、グラフや図を作成するために、どの学生もマックの前に座ったものだ。書類やフォルダー、ゴミ箱といった文具を模したアイコンを使い、デスクトップ(机の上)で作業をするという使い方が人間的というか、直感的というか、そういうインターフェイスを備えたコンピュータだったから、誰もが親近感を覚えたし、所有したくなるコンピュータだったのだと思う。
マックユーザーのお医者さんを見かけると、僕はコンピュータの話を持ち出したくなる。古くからのユーザーが多いので、話に乗ってくる。昔話に花が咲く。「学生のころはね、5kg近くあるパワーブック(←機種名)をバックパックに入れて毎日持ち歩いていましたよ」「研究室にQuadra(←機種名)が入ったときは、本当にうれしくてねぇ」・・・そんなとき、近くにいるWindowsユーザーは、キョトンとして僕らの会話を眺めている。パソコンの思い出話なんかに、なんでこんなに夢中になれるのかと。
そこには、マイノリティ同士の連帯感もあり、学生時代から必死に勉強してのし上がってきたお医者さんの青春の思い出もあり・・・簡単には説明できるものではないのだが。
先日も、アメリカの学会会場で、床に座り込みパワーブック(ノートブック型のマック)を操作している外国人医師を見かけた。おそらく、学会発表のためのデータか何かをいじっていたのだと思う。忙しそうで悪いなとは思ったのだが、彼のパワーブックに見かけない物体が取り付けてあったので、僕は、どうしても話かけたくなった。「Excuse me・・・」。すると彼は僕の顔をギロっと睨んだ。「忙しいのに、何のようだ?」というような目つきである。これはいかんと思い、慌てて用件を伝える。「あの、あなたのパワーブックには、どうして、そんなハンドルが付いているの?」。追いとばされるかなと思ったのだが、彼の反応は逆だった。僕の質問を聞いたとたん、彼の表情は柔らかくなり「え?これ?これはねぇ・・・」と嬉しそうに、ハンドルをクリクリと回転させ、「こうやると、ほら。取っ手になってパワーブックをぶら下げることが出来るんだ。そして、こうやって元に戻すと、ほら、今度はスタンド代わりになる。でも、パワーブックの本体の色と同じだからクールだよね」と、立ったり座ったりしながらデモンストレーションして見せてくれた。「君もパワーブックを持っているなら、このサードパーティ製のオプションを使ってみたらいいよ」「たしかにCoolですね」「そう、めちゃくちゃCool。たしか○○っていう企業が作っているオプションだったな。インターネットで検索したら、すぐに分かるよ」「・・・ところで、あなたのお仕事は・・」「あ、そうそう、研究室の友達にメールを送らなきゃいけないんだ」「どうもありがとう。ハンドル探してみますね」「すぐ見つかるよ」
と、こんな調子で、マックユーザーの連帯感は国籍も越えるのである。「ラップトップ」と言わずに「パワーブック」、「ユースフル」と言わずに「クール」。このあたりが、実はマックユーザ同士の連帯のポイントとなっている。(アホか、と言われそうだけどね)
とにもかくにも、僕はお医者さんがマックを使っていたら、なるべく、その話題に触れるようにしている。パーソナルコンピュータというものは、実にパーソナルな思い出と結びついていることが多いので、その人の仕事の歴史とか、そういった深い部分に触れるような話題に展開することも少なくないからだ。
製薬会社の営業さんも、お医者さんとの親交を深めるために、ゴルフの話やら、ワインの話やら、いろいろな話題を一生懸命持ち出すのだが、僕としては、やっぱりマックの話を持ち出すのが一番よいかなーと思うのである。そのためには、営業さんもWindowsばかりでなくマックも使ってね・・・と、これは、ちょっと布教っぽいかな・・・。
人の道具に歴史あり・・。でも、高校生のみなさんは、こんな話題に惑わされることなく、これからのIT社会を、自由にのびのびと生きぬいて下さいね。