

1967年茨城県生まれ。医学ライター。医療関連編集者を経て、フリーランスライターとして独立。循環器、癌全般、消化器、泌尿器、皮膚科、眼科などの医学記事を執筆。海外取材も多い。
2004-06-28 号
高野 雅典(医学ライター)
先週、飲む小腸カメラのことについて書いてからというもの、「小腸」という臓器が、これまで忘れられた臓器だったのではないか、という気がしてきた。
もちろん医学の監視の目は小腸にだって届いていることだろう。だから「忘れられた」といっても、それは僕自身が忘れていただけに過ぎないのかも知れない。けれども、「大腸専門医」という言葉はよく耳にするのに対して、「小腸専門医」という言葉はあまり耳にしない。(こういった、ちょっとした疑問というか、平凡な頭が「?」と思ったことが、案外、医学ライターにとっては後々の大きなテーマとなることが多い・・・)
小腸というと、みなさんも生物学などで習っている通り、胃で消化された食物からの栄養分を吸収したり、小腸自体も脂肪分や蛋白質を中心に消化して、それを吸収するという働きをしている。そして、小腸のあとにつづく大腸では水分の吸収がおこなわれる。
だから、小腸は僕らの体にとっては「栄養分の入り口」という大切な役割をもった臓器である。小腸と大腸の違いは、大小という大きさの違いだけではない。小腸に異常があれば栄養不足で体がやせてしまうが、これに比べて、大腸に異常がある場合には、深刻な栄養不足という事態におちいることは少ないだろう。つまり、患者さんの小腸と大腸のどちらに異常があるのか、ということは大切なことで、しっかりと診断をつけなくてはいけないことになる。
ところで、僕自身が小腸に対して「すまなかった。忘れていたよ」と思うポイントはなにかというと、「口から食道へ、食道を通って胃の中へ、そして胃の次が小腸、小腸の次が大腸、そして排泄される」と、そんな食物の流れる道順の「途中」というイメージしかもっていなかったことである。もちろん、消化吸収の過程でも「途中」というイメージしかもっていなかった・・・。
しかし、体の外側から検査するという視点から考えると、小腸というのは、口から遠く、肛門からも遠い、ディープな場所にあるのだ。
先週も書いた通り、小腸を内側から観察する内視鏡検査というのは、とても難しく、長時間を要するのだそうだ。その分、患者さんの苦痛・負担が大きい。これは、結局のところ、小腸が「ディープな場所」にあるということに関係する。
口からも、肛門からも遠いとなれば、他にどうやって小腸にアクセスすればよいだろうか? もしみなさんが医者だったとしたら、どう考えるだろうか?
そう、上からダメで、下からもダメということになれば、横からということになる。けれど、診断のためにお腹を切るというのは、よほどのことが無い限り考えられない最終手段だろう。・・・となると、残された手段は、お腹の表面から内部をサーチする画像技術を使うということになる。レントゲン、超音波、CT、MRIなどが使えるだろう。
ただ、これらの画像技術には、それぞれ能力の限界がある。画像はあくまでも画像でしかなく、医者が手に取るように観察できるかといえば、画像で分かることと分からないことがある。例えば、木星や土星を、どんなに高性能な望遠鏡で見ても、やはり探査衛星を飛ばしてサンプルを回収するのには、かなわないということがあるように・・・。
小腸に癌(がん)が発生していたとしたら、やはり組織のサンプルを取って調べないことには、その癌がどのくらい増殖能力があるのか、他の臓器に転移する能力があるのかといったことは分からないだろう。内視鏡を使った検査では、患部を観察しながら、組織サンプルを採取することが出来る。これは、ほかの画像診断には出来ないことなのである。
幸いなことに小腸の癌の発生率は、大腸などと比べると、とても低いと言われている。これも、小腸の内視鏡検査があまり行われない理由のようだ。けれども、本当に、小腸の癌が少ないから内視鏡検査の実施率が低いのか、それとも、事実はその逆で、内視鏡検査の実施率が低いから癌の発見が少ないのか・・・。僕は、この点を、今後もう少し調べていこうと思っている。