

1967年茨城県生まれ。医学ライター。医療関連編集者を経て、フリーランスライターとして独立。循環器、癌全般、消化器、泌尿器、皮膚科、眼科などの医学記事を執筆。海外取材も多い。
2004-06-21 号
高野 雅典(医学ライター)
4月から6月頃までは、大きな医学学会が各地で開催される、いわゆる学会シーズンだ。学会取材を中心に仕事をしている者にとっては、この時期と秋の頃とが最も忙しい時期になる。僕も、5月から6月の上旬にかけて、アメリカの学会を3つほど取材してきた。最初はサンフランシスコで開催された泌尿器の学会、次にニューオリンズで開催された消化器の学会、そしてオーランドで開催された糖尿病の学会。どの学会もだいたい5日間くらいの開催期間なので、移動日も含めてそれぞれ1週間くらいの出張になる。
今回は、消化器の学会の取材のあいまに見つけたカプセル型の飲む小腸カメラを紹介しようと思う。まずは、実物を・・・と言いたいところだが、残念ながら本物は手に入らず、そっくりに作られたモックアップ(実物大の模型)を貰ってきたので、その写真をご覧いただきたい。

以前、未来の医療をテーマにした、とあるテレビ番組のなかで、「カプセル型の飲む胃カメラ」というものが紹介されていた。僕は、てっきり、それだと思って「とうとう飲む胃カメラが実用化されたのか」と、ぬか喜びしてしまった(笑)。しかし、たしかテレビで紹介されていた開発中の胃カメラは日本製だったはず・・・。今回、アメリカの消化器の学会で手に入れた、このカプセル型カメラはイスラエルの企業が開発したものだ。しかも、アメリカでは数年前にFDAが認可しており、現在では医療現場で使用されているという。日本でも、すでに、このイスラエルの企業が日本法人を設立しており、臨床でこのカメラを使用可能にする認可を申請中だという。
何か、狐につままれたような気分だった。どうも僕自身の認識と「実際」がずれているようだ。「飲む胃カメラ」は、まだまだ先のことだと思っていたが、実際には、もう「飲む小腸カメラ」が実用化されている。「胃」ではなく、「小腸」というところも、なにやらワケがありそうだが・・・。
上の写真を見てもらえば分かるが、イスラエルの飲むカメラは「M2A」と名づけられている。これは「Mouth to Anus(口から肛門まで)」という意味だそうだ。だから、本来は、小腸だけが対象ではなくて、胃も、食道も、また、小腸のあとにある大腸も検査の対象にしたい、という気持ちはあるのだろう。しかし、実際には、小腸の検査用として認可された。
これには色々な理由があるようだ。カプセル状の小型カメラは操縦することが出来ないので、食道や胃を短時間に通過してしまい、じっくりと検査することが難しい。つまり、医師としては、気になるポイントをじっくり観察したいわけだが、それが難しいのであっては、従来からあるチューブ状のカメラを使った方が良いということになる。
それから、大腸の検査が出来ないのは、主にバッテリーの有効時間が問題のようだ。小さなカプセルの中には、カメラ以外に、照明用のLED、体外に映像データを送信するアンテナなども入っている。それ以外のスペースに小型バッテリーが入っているわけだが、これがあまり長時間は持たないようで、口から飲み込んで大腸に達するころまで充分な電力が維持できないようなのである。
真っ先に「飲む小腸カメラ」として認可されたのは、今まで、小腸の内視鏡(カメラ)検査というものが、胃カメラよりも、もっと苦痛を伴う難しい検査だったことが理由のようだ。胃は、お腹の中に半分固定されたようなかたちで収まっている。これに対して、小腸というのは、ほとんど固定されない状態でお腹の中に納められている。そのため、チューブ状の内視鏡(カメラ)を胃に挿入するのは比較的簡単なのだが、胃を通過して小腸に入れるのは、とても難しいのだという。ちょうど、靴下をはくときに、手で押さえないではこうとしたら、とても難しいのと似ている。・・・ともかくも、小腸の内視鏡検査の実施率というのは、とても低かったのだそうである。となると、「飲む小腸カメラ」のメリットは大きい。例え、小腸内を往復させて、じっくり観察できないとしても、全く検査しないよりは、ずっと良いわけである。
こういった医薬品というものは、安全性がとても大切である。診断用カメラとしての性能ももちろん必要だが、安全性に問題があっては困る。そして、安全性を本当の意味で確認するには、沢山の使用経験が必要になる。その意味では、たとえ小腸検査専用であったとしても、実際に臨床で使われることに大きな意味があるだろう。小腸以外の検査については、きっと性能を改良することで対応できる。
実際、このイスラエルの企業は、次の製品として「飲む食道カメラ」の臨床試験をはじめており、FDAの認可も間近のようだ。また、胃カメラ、大腸カメラの開発も続行中だそうだ。
日本で開発中と言われた「飲む胃カメラ」は、とても高性能だったと記憶している。バッテリーを内蔵しておらず、体外から電波で荷電する。磁力の応用でカプセルの動きを操作できる。小型ハサミを搭載して組織を採取する、薬物を体内で放出する、といった機能も備えているとか・・・・。しかし、開発中だと言われてから、もう何年もたっており、いつになったら実用化されるのか・・・・。
性能面で多少見劣りするが実用化され、すでに患者の苦痛を和らげている製品。一方、高性能だが夢のような話題ばかりが先行して、いつまでたっても実用化されない製品。はたして、どちらが良いかといえば、当然前者である。
普段、「未来の○○」、「夢の○○」と言っているが、ちょっと世界に目を向けてみると、案外、すでに実用化されているものがある。ということが、今回、一番のおどろきだった。