

1967年茨城県生まれ。医学ライター。医療関連編集者を経て、フリーランスライターとして独立。循環器、癌全般、消化器、泌尿器、皮膚科、眼科などの医学記事を執筆。海外取材も多い。
2004-05-17 号
高野 雅典(医学ライター)
特定保健用食品は、科学的に健康増進の効果が証明されている食品であるが、あくまでも「食品」であり、「医薬品」ではない。医師のあいだでは、特定保健用食品に認定されている商品をどう捉えたら良いのか、という疑問が実際にあるという。
例えば、特定保健用食品の代表的なものとして、「高めの血圧が気になる方の食品」「コレステロールが高めの方の食品」「血糖値が気になる方の食品」といった商品がある。けれども、一方で、これらと同じような目的で患者さんに処方する医薬品も存在している。もちろん、医薬品に比べたら、これらの特定保健用食品の効果は低いはずなのだが、実際にどのくらい低いのか、差があるのか、といったデータはほとんどないのが現状だという。
ここで、間違ってはいけないのは、例えば、診断基準からみて「高血圧」に該当する人(つまり患者さん)は、本来、高血圧治療薬と呼ばれる医薬品で治療すべき、ということだ。それを、法的に食品に分類されている「高めの血圧が気になる方の食品」だけで済ませてしまっては、厳密には、医学的な治療を行っていないことになる。
ただ、一般消費者にしてみると、自分は医薬品で治療を受けるべき高血圧患者なのか、それとも、食品で養生すればよい「高めの血圧が気になる方」なのか、といった区別はつきにくい。一方、医師にしてみると、自分の患者が、処方薬以外に、これらの特定保健用食品を摂取してしまったらどうなるのか、という不安もある。
一般の人なら「薬も飲んで、健康食品も食べたら、きっと病気も良くなるだろう」と考えるに違いない。つまり、1+1=2という考え方だ。
しかし、医師が心配しているのは「薬物相互作用」という問題だ。2種類の薬を使った場合に、1+1が2にならないことがある。1+1=0(効果無し)になることや、場合によって1+1=-1(有害)になってしまうこともある。それから、薬の効果は大きければ大きいほど良いとも言い切れない。1+1が5や10になってしまったとき、思わぬ害が生じる場合がある。だから、医師は、患者さんが、どんな薬を飲んでいるのか、何種類飲んでいるのか、普段から気をつけている。そして、特定保健用食品は、ある程度の作用が科学的に証明されているのだから、薬物相互作用が起きるのではないかという心配が、医師の間にはある。
今年の3月末、日本薬学会で、帝京大学薬学部と福島県立医科大学附属病院薬剤部の共同研究グループが、「高めの血圧が気になる方の食品」と医師が処方する高血圧治療薬の作用の強さを比較した結果を報告した。残念ながら、「薬物相互作用」についての研究はまだ先のようだが、特定保健用食品と医薬品の作用がどのくらい違うのかは、おぼろげながら分かってきた。
「高めの血圧が気になる方の食品」には、血圧の上昇に関係しているアンジオテンシン変換酵素(ACE)という体内物質を阻害するペプチド成分が含まれている。これと同じように、高血圧治療薬にも「ACE阻害剤」と呼ばれる薬があり、多くの患者さんに処方されている。研究グループは、「高めの血圧が気になる方の食品」と、「ACE阻害剤」とが、体内物質であるACEをどのくらい阻害するのか、試験管のなかで比較した。
その結果、いくつかある「高めの血圧が気になる方の食品」商品のなかでACEに対する阻害作用が一番強かったものと、医薬品の「ACE阻害剤」のなかで一番作用が弱いものを比較した場合でも、医薬品の方が約30倍強力であることが分かった。
ただし、この試験管の中の実験は、有効成分を抽出して、濃度差を考慮しておこなったものだ。実際に、ヒトが摂取して、それが腸から吸収されるときの吸収率などは考慮されていない。それから、先ほども述べたように、薬物相互作用についてはよく分かっていない。はたして、効果が足し合わされるのか、打ち消し合ってしまうのかは、まだデータがないのだ。
医師が、もっとも心配しているのは、こういった健康食品を「薬」だと患者さんが思いこんでしまい、それに頼った結果、必要な治療が遅れてしまうことだそうだ。一時的に血圧が下がるなど、状態が良くなったとしても、長い期間の影響はよく分からない。だから、高血圧でも、その他の病気でも、それが「気になったら」まず、医師に相談することが重要といえるのではないだろうか。