

1967年茨城県生まれ。医学ライター。医療関連編集者を経て、フリーランスライターとして独立。循環器、癌全般、消化器、泌尿器、皮膚科、眼科などの医学記事を執筆。海外取材も多い。
2004-05-10 号
高野 雅典(医学ライター)
今の健康食品ブームのなかで、僕らの身の回りには、薬とも食品とも思えるような様々な商品がある。もちろん、それらの商品の表示をよく見れば、法律上問題ない適切な表示がなされている。しかし、インターネットを介して個人輸入できるような海外の健康食品ともなると、そういった規制はおよばない。そのような物を摂取して何も効果がないということならば、単純に「お金を損した」というだけの問題だが、思わぬ健康被害が出ては大変だ。実際、過去に、海外から個人輸入した健康食品が原因で健康を害した例が報告されている。
東京都保険局の健康食品注意報(医薬品成分が検出された製品情報)
http://www.kenkou.metro.tokyo.jp/anzen/supply/check.html
日本では、薬事法という法律によって、「医薬品」つまり薬とは何かを定義している。「医薬品」とは、病気の診断・治療・予防に用いること、あるいは、体の構造や機能に影響をおよぼすことを目的としたもの(ただし器具類を除く)とされている。そして、この定義にあてはまるものは、承認・許可なしに製造したり、輸入・販売してはいけない法律になっている。また、逆に、医薬品ではないはずの食品あるいは健康食品に、医薬品成分を混入させたり、医薬品と紛らわしい効能などを表示・宣伝したりすることも、薬事法で禁止されている。
ところで、驚いたことに「健康食品」という言葉には、はっきりとした定義や規制はないのだそうだ。つまり、それを作る人、あるいは買って食べる人が「健康食品」と思っているものなら、それは健康食品になってしまう。例えば、梅干しや納豆のような伝統的な食品は体に良いと、みんなが思っている。こういうものは健康食品ということになる。そうすると、先週述べたような、テレビで紹介される数々の「体によい食べ物」も、すべて健康食品と言えば、言えることになる。だから、世の中には健康食品があふれかえっているのだ。
案外、このあたりが、薬と食品の境界が曖昧になってしまう原因なのかも知れない。「健康食品は体に良い」と強調するあまり、つい、薬のように体に影響を与えるもののように表現する売り手が出てきてしまうのだろう。もちろん、これは厳密には薬事法違反だ。まして、本当に体に影響が出るように、医薬品成分を混入するような行為はもってのほかだが・・・。
厚生労働省では、健康食品ブームによって起こっている様々な混乱に対して監視体制を強めようとしているようだ。しかし、そもそも薬と食品の境界線というのは、本当に難しい。そこに境界線を引こうとしたら、薬事法ばかりではなく、食品側にも様々な定義・規制をつけなければならないだろう。厚生労働省では、いわゆるサプリメントのような食品に対して、2つの定義を用意している。
1つは、
栄養機能食品
http://www.mhlw.go.jp/general/work/syokuhin4.html
もう1つは、
特定保健用食品
http://www.mhlw.go.jp/general/work/syokuhin3.html
である。
この2つのどこが違うかというと、「栄養機能食品」はビタミンやミネラルなどの栄養成分が指定範囲内の量で含まれているもの。ただし、許可申請などは必要ない。僕らが一般のお店で見かけるサプリメント商品の多くは、この「栄養機能食品」だろう。一方、「特定保健用食品」は、健康を保つ具体的な機能を科学的に証明して、認可を受ける必要がある。「特定保健用食品」は通称トクホと呼ばれており、現在、この表示が認められている商品は400種類を超えている。科学的な効果が認められている食品が400種類以上もあるというのは、おどろきだ。代表的なものとしては「高めの血圧が気になる方の食品」「コレステロールが高めの方の食品」「血糖値が気になる方の食品」と表示されているようなもの、皆さんになじみがありそうなものとしては「虫歯になりにくい食品」などもある。
しかし、お医者さんたちの間では、今、このトクホが混乱の種になっているという。医師の側からみると、トクホは限りなく薬に近い食品に見える。何しろ、科学的な効果が認められて、厚生労働省のお墨付きなのだから、今までの「健康食品」や「栄養機能食品」とは、どこか格が違う。しかし、薬事法で規定されている「医薬品」とも違う。もし、自分の患者さんが「高めの血圧が気になる方の食品」と名付けられているトクホを摂取していたら、その人に今まで通り高血圧の薬を処方して大丈夫なのか?といった疑問が、医師の間に実際あるのだという。
最近、国内の医学学会で、このトクホに関するおもしろい研究が報告された。「高めの血圧が気になる方の食品」と、医師が使う高血圧薬との間で、どのくらい作用の違いがあるのかを比較した研究である。まさに、「食品」と「薬」の直接対決といった感じである。来週は、この研究結果について紹介しよう。