

1967年茨城県生まれ。医学ライター。医療関連編集者を経て、フリーランスライターとして独立。循環器、癌全般、消化器、泌尿器、皮膚科、眼科などの医学記事を執筆。海外取材も多い。
2004-03-22 号
高野 雅典(医学ライター)
先週の米国心臓学会に引き続いて、もう少し、心臓病ついて話を続けようと思う。今回は、心筋梗塞や狭心症など、そして脳に障害を与える脳卒中は、いずれも血管のトラブルによる病気であることを理解してもらうのがテーマである。
先週も少し触れたが、日本における死亡要因の第一位は癌であり、それに次いで心臓病、脳卒中が多い。心臓と全身の血管を合わせた血液循環のためのシステムを「心血管系」あるいは「循環器」と呼ぶが、心臓病や脳卒中は、この心血管系のトラブルが要因である。
体にとって心血管系がなぜ重要かといえば、様々な臓器・組織に酸素と栄養分を送り届ける役割をもつ血液、それを循環させる仕組みだからと言える。心臓は血液を押し流すポンプの役割をもつが、実は、心臓にも心臓専用の血管(冠動脈)が走っており、そこから酸素と栄養分を受け取っている。この冠動脈が詰まってしまうと、心臓の筋肉が拍動するのに必要な酸素・栄養分が欠乏してしまい、狭心症や心筋梗塞といった心臓病が発生する。これらの病気は、心臓病の中でも「虚血性心疾患」と呼ばれており、冠動脈に原因がある病気である。そして、この冠動脈に原因がある心臓病が最近とくに増えている。
脳卒中は、大別すると、脳血管が詰まってしまう脳梗塞と、脳血管から出血して起こる脳内出血・くも膜下出血に分けられる。脳卒中は、かつて日本人の脂肪要因の第1位を占めていたが、高血圧の予防・治療が行き届いてきたせいか、現在では減少傾向にあり、癌・心臓病に次いで第3位となっている。しかし、減少したのは主に出血性の脳卒中であり、脳梗塞は増えてきている。
つまり、日本人の心血管系の病気は、大づかみに言うと、血管(動脈)が詰まってしまうタイプのトラブルが増えてきているということだ。それは、欧米の心血管系の病気のあり方に近づいてきている。最近の研究では、食生活をベースにして起きてくる様々な病気、例えば、高血圧(血圧値の異常な上昇)、高脂血症(血液中のコレステロールや中性脂肪の上昇)、糖尿病(血液中・尿中の糖分の上昇、血液中のインスリン値の異常な上昇)などが、心血管系の病気の可能性を高めていることが明らかにされている。日本人の食生活が西洋化し、高カロリー化してきたことが、関係していると考えられる。さらに、肥満や運動不足なども、心血管系の病気の増加と関係している。
ところで、心血管系の病気になる過程で、血管の中ではどのようなことが起きているのだろうか。少々乱暴な例えなのだが、血管を水を流すホースだと思ってみよう。新しいホースは弾力性があり高い圧力にも耐えられるが、古いホースは硬くなり避けやすくなる。それから汚れた水を流しているとホースの内側にこびりついて、ホースの素材を痛めるし、こびりついた汚れが盛り上がって流れも悪くするだろう。成人の健康診断には「動脈硬化度測定」という項目があるのだが、人の血管も老化とともに硬くなっていくことが知られている。これは生理的な動脈硬化と呼ばれ、ある程度は仕方のないことである。ところが、年齢以上に動脈が硬くなり、内側の傷みが早い人がいる。こういう人の動脈は病的な動脈硬化を起こしている可能性が高い。
病的な動脈硬化を起こしやすい部分は、脳動脈,冠動脈,腹腔動脈,腎動脈,末梢動脈などであり、とくに血管の分岐部分、曲がりの急な部分である。こういう部分には、「動脈硬化病変(プラーク)」と呼ばれる異常な組織が血管の内側に作られ、ある場合には盛り上がって、血液の流れを妨害する。狭心症や心筋梗塞を起こした患者の冠動脈を、血管造影(血管用のレントゲンのような診断方法)で調べると、血管の内側が盛り上がり、血液の流れる部分が狭まっている「狭窄部位」が発見される。

※左図:血管造影で見た冠動脈の狭窄部位(白く写っているのが冠動脈の血流。矢印の部分が狭窄部位)
右図:動脈硬化病変のイメージ図
しかし、最近分かってきたことは、あまり盛り上がっていない動脈硬化病変であっても意外に危険だということだ。どういうことかと言うと、動脈硬化病変には大きく2つのタイプがあり、血管を狭窄(狭める)させるほど盛り上がっていても繊維成分などが多くて比較的硬く安定しているタイプと、狭窄はそれほどでもないが、内部に脂肪や炎症細胞などを沢山含んでおり、何かの拍子に表面の薄皮が剥がれて内容物を血液にさらしてしまうタイプがあるということだ。後者の場合、ある時まで順調に血液を通しているが、突然皮膜が破れて内容物が血液に触れ、大きな血液の塊を作ってしまう。血液の凝固(かさぶたが作られる仕組みと同じ)は、出血を防ぐため仕組みとしては重要だが、血管の中で凝固されてしまうと、これは血管を詰まらせる要因となる。急性心筋梗塞の要因としては、むしろ、このタイプが多いことが最近明らかにされている。
血管が詰まってしまう事例が増えているのは、高齢の人よりも、むしろもっと若い世代に言えることだ。油っこくて高カロリーの食事を今日食べたから明日心臓病になるというわけではなく、長年の食生活や運動不足が関係している。最近、幼い頃から高カロリーの食事をしている人が非常に多く、今後はもっと、これらの病気が増えるだろうと予測されている。
来週は、詰まってしまった血管に対する治療法として、最近広く行われるようになったカテーテル手術について、そして、心筋梗塞などの治療に期待されている遺伝子治療について述べようと思う。