

1967年茨城県生まれ。医学ライター。医療関連編集者を経て、フリーランスライターとして独立。循環器、癌全般、消化器、泌尿器、皮膚科、眼科などの医学記事を執筆。海外取材も多い。
2004-03-01 号
高野 雅典(医学ライター)
世界保健機構(WHO)が、世界100カ国の自殺率データを発表している。これを見ると、いわゆる先進国の中で日本はトップクラスの自殺率であることが分かる。上位20位の国名をリストした下記の表を見ていただきたい。国によって調査を実施した年が若干ずれており、また、調査方法も国によって違っているようだ。けれども、日本の自殺率がかなり高い傾向にあることは、ほぼ間違いない。アメリカやイギリス、カナダ、ドイツ、オーストラリアといった国はこの20位の中には入っていない。そして、上位に入っている国は、政治的な分離・独立や内戦などで社会情勢が不安定な国が多いのである。
各国の自殺率(上位20カ国)
(WHO)このデータにはかなり驚かされるが、しかし驚いているばかりでも仕方ないので、なぜ日本はこれほどまでに自殺率が高いのか、少し冷静に考えてみよう。実は、先日、精神科医や心療内科医の先生に、自殺やうつ病に関して話を聞く機会があった。そのときの話では、どこの国でも自殺件数の増加は、通常、社会不安と関係があるという。
たしかに、東欧諸国などでは内戦やテロがあり、それが大きな社会不安となっていることは納得がいく。しかし、日本で、これらの国と同じように自殺率が高いのは何故なのか。内戦やテロに匹敵する社会不安が日本にあるということなのだろうか。
それに対する明確な答えを持っているのは、医者ではなく、社会学者かも知れない。しかし、話を聞いた精神科の先生によると、日本で考えられる大きな社会不安の1つとして、経済の急激な悪化や失業率の上昇があるという。実際、日本におけるこの数十年間の失業者数のグラフと、自殺者数のグラフとを重ね合わせてみると、2つの間に関係がありそうに見える。

データ:産業医科大学 永田頌史先生
また、日本の自殺者の年齢を見てみると、警察庁が発表した2002年の自殺者総数3万2143人のうち、30代が約12.2%、40代が約15%、50代が約26.3%であり、たしかに働き盛りの世代の自殺者が多いことが分かる。そして、自殺者の約70%が男性だ。
経済の低迷によってリストラが進み、さらに、中小企業や零細企業の倒産などで多くの人が路頭に迷っている。倒産や失業に至らないとしても、景気の低迷は企業に打撃を与え、働く人一人一人に大きな精神的・肉体的負荷を与える結果になっている。その渦中にいるのは、一家を守らねばならい大きな責任を抱えた「お父さん」の世代なのである。
精神科の先生は、自殺者の約9割は何らかの精神疾患を患っており、そこで、とくに問題となるのが、うつ病あるいはうつ状態を伴う精神疾患であると話してくれた。今、職業上のストレスからうつ病にかかる人の数が増えているという。自殺率の増加に対して医療の側からアプローチすることが出来るとすれば、それはうつ病をはじめとする精神疾患の予防と治療である。
そして、うつ病や自殺の防止は、国家にとっても重要な課題であり、現在、厚生労働省が検討会を作り、「うつ対応マニュアル」「自殺防止マニュアル」といったものを医療従事者向け、地方行政職員向けに作成しているという。
次回は、高校生のみなさんにも知っていて欲しいことの1つとして、もし、家族の中で誰かがうつ病にかかったらどうすれば良いか、うつ病とはどんな病気なのか、について述べようと思う。
(つづく)