

1967年茨城県生まれ。医学ライター。医療関連編集者を経て、フリーランスライターとして独立。循環器、癌全般、消化器、泌尿器、皮膚科、眼科などの医学記事を執筆。海外取材も多い。
2004-02-16 号
高野 雅典(医学ライター)
アメリカなどに旅行に行くとTattoo(タトゥー)という看板を掲げた店を目にすることがよくある。店の外観はバーのようだったり、美容室のようだったりする。それから、祭りやイベントなどでも、屋台にまじってタトゥー屋のような店を見かける。そういう光景を見ると、海外の人は日本人よりも気軽にタトゥーを入れてしまうのだなと感じるし、実際、若者からおじさんまで、タトゥーを入れている人があちこちにいる。
そして日本でも、最近、タトゥーを入れた若者をよく見かけるようになった。ピアスにいたっては、アメリカでも日本でも、まったく普通に使われていて、それが変わった行為だと認識する人は少なくなっている。
日本人なら「親からもらった体に傷をつけることが良いか悪いか」、そのくらいのことは誰でも考えるのではないかと思うが・・・どうだろうか。まぁ少なくとも、僕らの世代(30代)の価値観では、まだ少し、そういうこだわりはある。こういうこだわりの根っこは一体どこにあるのだろうかと考えると、それは、歴史的に伝わってきている、ある種の自然観なのかもしれないし、宗教観なのかもしれない。でも正直なところは、何となく植え付けられた根拠のない価値観なのかも知れないとも思う。
ただ、いずれにしても、「親からもらった体に傷をつけるべきではない」という伝統的な発想は、現代になって分かってきた免疫機構の重要さや、病原体の感染リスクなどを言い当てていたようだ。
医学的に見ると、タトゥーやピアスは、皮膚組織というバリアを破り、血液や組織液を外界に曝す行為であって、実は「怪我」に相当する。だから、その患部に細菌が感染して、炎症も起こすし、化膿してしまうこともある。小さな怪我は放っておいても治るのだから、消毒さえしておけば大したことではないと思う人がいるかもしれない。しかし、タトゥーやピアスは、転んで膝を擦りむくのとは、ちょっと違った危険性があることに気付いているだろうか。
転んで擦りむくのは、石か砂が相手であり、そこにいる細菌・ウイルスは、かならずしも人間を待ちかまえている種類とは限らない。ところが、タトゥーやピアスに使う器具というのは、それを使い回した場合、誰か他の人間に感染していた細菌・ウイルス、つまり人間を狙った人間専門の種類が存在する危険性が高いのだ。1日に何十人もの客を集める店で、もし、滅菌・消毒が不十分な器具が使い回されているとしたら・・・。
血液・組織液などの体液を介して感染する病原体には様々なものがある。AIDSウイルス(HIV)のように一般の人からも非常に恐れられているものもあるが、それは逆に言うと、人間の側からの監視・注意が強力であることを意味する。ところが、一般にあまり恐れられていない病原体で、漫然と広まってしまっているものも少なくないのだ。注射針の使い回しや、ピアス、タトゥーによって感染すると考えられるB型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)などが、その良い例だろう。HBVやHCVが世の中に広まってしまった理由は、ピアスやタトゥーだけではなく、実は社会的な背景もあるのだが、それにしても、そういった病原体に関する知識が不足した店などで、安易に耳に穴を開けたり、皮膚組織を削ったりすることは、とても考え物である。
次回は、日本国内に150万人のキャリアがいると言われるHCVについて、そして、日本や欧米では数が減っているが、アジア地域で、まだ十分に治療できない国が多いHBVについて述べようと思う。
(つづく)