

京都造形芸術大学教授。映画評論家。NPO教育支援協会チーフ・コーディネーター。「『子どものため』は大人の身勝手。子どもは人質ではない。いますぐできる『学校を楽しくする方法』を教えます」と、文部官僚時代より教育問題に刺激的・積極的に発言する。2006年11月文部科学省を退職。
2011-12-18 号
寺脇 研(NPO教育支援協会チーフ・コーディネーター)
日本がTPP=Trans-Pacific Partnership(環太平洋戦略的経済連携協定)に参加するかどうかが大きな議論になっています。今のところ、野田首相自身は参加する心づもりのようですが、多方面からの反対意見もあり、どうなるかはまだ不透明です。おそらく、来年になっても議論は続くでしょう。
日本社会の未来を大きく左右する決定ですから、未来の日本を生きる高校生の皆さんも、できるだけニュースに接して自分なりの意見を持ってほしいと思います。よく、江戸時代の「鎖国」と幕末の「開国」にたとえられますよね。今までの自国保護の関税システムが「鎖国」なら、TPPによって太平洋周辺の多くの国々(今のところシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランド、アメリカ、オーストラリア、マレーシア、ベトナム、ペルー、カナダ、メキシコ)と自由貿易体制を作ることを「開国」と見立てているわけです。たしかに、「鎖国」を続けるか、それとも「開国」するかは、幕末がそうだったように社会の未来を大きく動かすことになるかもしれません。
ただ、政治家や財界人、評論家などマスコミに登場する人たちの賛否の議論には、大きく欠けているところがあります。それは、TPPに参加したとき他の加盟国との間に文化や人間の交流も進めなければならないという点です。そのことを抜きに、自動車産業が儲かるとか、農業が打撃を受けるとか、経済的利害の面だけを取り上げて、賛成だ反対だと論争しているのは、狭い考え方に思えてなりません。
他の国と自由貿易体制を作れば、当然貿易だけでなくさまざまな産業においてその事業に他の国の人々が参入することになります。撤廃するのは関税だけではなく、外国人の参入を妨げていた制度面の障壁(非関税障壁)も同じように扱われるからです。その場合、日本人が他国で働くことも増えるでしょうが、外国人が日本社会で働き、暮らす場面も飛躍的に増大するでしょう。
そのとき、わたしたちの社会は入ってくる外国人やその独特の文化を受け入れることができるでしょうか。わたしは、多くの国々の人や文化が入ってくることには大賛成ですが、果たして日本全体ではどうでしょう。現在でも、日本に暮らす在日コリアン、韓国人、中国人、ブラジル人、タイ人などアジアや中南米の人々や彼らの文化に向けられる視線は寛容を欠いています。残念ながら、大学への留学生であってもアパートを借りることひとつ、スムーズには行きません。日本には外国人差別がある、と言われても仕方ない状態だと思います。
「ネット右翼」と呼ばれる人たちがネット上でアジアの外国人やその文化に対して発している口汚い言葉を見たことがありませんか? 全く寛容でない。TPPに加入したとき、少なくとも加盟国であるシンガポール、ブルネイ、チリ、マレーシア、ベトナム、ペルー、メキシコといったアジアや中南米の国々の人々を温かく受け入れることができるのか。その覚悟が、経済論議の前に、まず必要だと思うのです。