

京都造形芸術大学教授。映画評論家。NPO教育支援協会チーフ・コーディネーター。「『子どものため』は大人の身勝手。子どもは人質ではない。いますぐできる『学校を楽しくする方法』を教えます」と、文部官僚時代より教育問題に刺激的・積極的に発言する。2006年11月文部科学省を退職。
2001-05-20 号
寺脇 研(NPO教育支援協会チーフ・コーディネーター)
すてきな青春映画に出会ったので、ぜひご紹介したいと思います。
その映画『あしたはきっと…』の宣伝文句はこうです。《『20世紀ノスタルジア』の広末涼子、『がんばっていきまっしょい』の田中麗奈のように、『あしたはきっと…』では吹石一恵が青春映画のヒロインを爽やかに演じ、その魅力を余すところなくスクリーンに映し出します》。
正直言って、ホントかな、と疑いました。だって、引き合いに出されている2本の映画は、最近の青春映画の代表的傑作なんだもの(まだ見ていない人には一見をお勧めします。そうそう、広末涼子の『秘密』、田中麗奈の『はつ恋』も、高校生の皆さんにお薦めしたい映画です)。それと比べていいほどの作品なんだろうか、と思ってしまいました。
ところが。観て納得、です。撮影当時は現役高校生だったというヒロイン吹石一恵が、とてもいい。生身の少女が同年齢の生身の人物を演じるリアルタイムな印象が、まず鮮烈だ。ヴィヴィッドに変容する表情や仕草がなまなましいし、好きな男の子を探り合って友人同士はしゃぐ場面など台詞聞き取り不能なほどの喧噪で、まさに女子高生集団そのものの気配を醸し出しています。
新聞インタビューで「今、見たい映画は?」に『サトラレ』と答え、「あ、『あしたはきっと…』もいい映画ですよ」と慌ててフォローしていた吹石さんだけど、実はあなたの出た方がはるかにすぐれた作品なんですよ。……と、つい教育口調になってしまうのは、わたしも学園気分に引き込まれたからかもしれません。
『サトラレ』は、万人にわかりやすい作りでたしかに話題となったが、伝える内容の深みは『あしたはきっと…』に遠く及ばない。主人公の青年が気持ちを露骨に「サトラレ」るのはともかく、彼を取り巻く人たちの感情まで懇切丁寧に説明されたのでは、映画を読み味わうせっかくの楽しみがすっかり損ねられてしまうのです。
それに対して、この映画の少女たち、少年たちの心の裡はなかなか窺い知れない。あこがれの先輩は、ヒロインにどの程度の好意を持ってくれているのか。幼なじみの男の子は、彼女の親友と交際を始めるのだが、果たしてヒロインのことは異性として意識していないのか。ことあるごとに叱咤したり挑発したりしてくる女子先輩の態度は、期待ゆえか憎しみゆえか。等々、思春期の揺れ動く思いが一面的でなく示され、その心の軌跡をあれこれと想像させてくれます。
若者たちだけではありません。ヒロインをめぐる家族関係も、各人のさりげないふるまいの中にさまざまな思いがこもっていて見逃せない。忙しさにかまけているかに見える母親や言葉少なで朴訥な父親が、ある瞬間、まなざしやちょっとしたひとことで娘への深い愛をほのめかす。そして、病院で昏睡状態を続けている祖母までも、ある方法で彼女への熱いメッセージを発してくれるのです。
この映画、大阪地区では既に上映中。東京では5月19日から。よかったら、観て、感想を教えてください。