2012-02-05 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
今週末から公開される
映画『鬼に訊け 宮大工 西岡常一の遺言』は、
法隆寺の昭和の大修理、
そして薬師寺復興の棟梁をつとめた
宮大工・西岡常一さんの偉業を見つめたドキュメンタリー。
建物に千年の命をふきこむ西岡さんの考え方は、
木を敬い、木の心に向かい合う、
そこに集約されているように思えます。
映画は西岡さんの仕事を
長きにわたって真摯に追いますが、
そこにあらわれてくるのは、
木をどのように見つめ、どのように生かすのか。
そして、そのためには、どんな道具が必要になるのか。
すべて木を敬ううえに考えられたことばかりなのです。
西岡さんは言います。
「1300年が経った法隆寺の(建材の)檜(ヒノキ)も、
削るとプーンと檜の香りがする。
塔の瓦を下すと、(瓦の下にあった)檜が、
毎日、少しずつ上がってきて、いまも弾力がある。
寿命も耐用年数も長い。檜は神様だと思いますね」

ⓒ『鬼に訊け』製作委員会
西岡さんの方法は、まずはじめに木ありき。
既成の技術を木という素材にあてはめるのではなく、
木の癖を知り、木の心を理解しながら、
それに合った道具を生み出し、そのうえに技術が生まれる。
木を規格化し、数字にあてはめ、大量生産する
現代の建築とは、まったく正反対の方法なのです。
それゆえ、法隆寺の修理の際には、
鉄骨の必要性を訴える学者グループと真っ向から対立。
そこから「法隆寺の鬼」といわれるようになったといいます。

ⓒ『鬼に訊け』製作委員会
西岡流ならではの道具には、
古くからの木との向かい合い方に沿った
さまざまなものがあります。
たとえば、この映画によく登場する先端がカーブしている
槍鉋(やりがんな)という道具。
これは、室町時代以降、使われなくなっていた道具だそうで、
飛鳥時代に建てられた法隆寺を修理するために、
西岡さんが使い始めたもの。
槍鉋を使うと、削ったあとの木の色がちょっと違う。
全体の感じがやわらかくなり、耐用年数が長くなるのだそうです。
見てみると、素人目にも木の表面がなめらかで本当にきれい。
薬師寺復興の際には、予算と工費の都合から
電気カンナも使ったそうですが、
電気カンナは「回転で千切っているような感覚」なのだそう。
目も粗く、毛羽立ったようになるので、
そこに雨が入ると、カビが入りやすくなるのだそうで、
寺院建築に比べ、なぜ普通の家の耐用年数が短いのか、
こういったところからも「なるほどな」と思わされます。
西岡さんは弟子たちに言います。
道具はものではなく、自分の肉体の先端だと思え。
自分の魂を木に打ち込むつもりで仕事をやってもらいたいと。
そして、
合理的なことを考えずに、
時間をかけてもいいから、ごまかしでなく、
本物のこと、本物の仕事をやってもらいたいと。

ⓒ『鬼に訊け』製作委員会
釘などの鉄材を使わずに、
木を木を組み合わせることで繋いでいく寺社建築。
継ぎ目となる木は、骨格であると同時に間接部にもなり、
それが地震の際に揺れ動くことで、
建物にかかる負担を分散させるのだそうです。
昔からの工法は、
日本の風土にも合っているのだと改めて気づかされます。
「昔の人は木を神様として、礼拝してから切り倒した」
と西岡さんは言います。
薬師寺の高田好胤管長は、
台湾で薬師寺再建のための木を切る際に、吉野檜の苗を持っていき、
「御恩返しに」伐採した後に植林したそうです。
いまよりずっと自然の近くで
自然とともにあった昔の人たちは気づいていて、
都市生活に慣れた現代の私たちが見失いがちなこと。
ここ数年、自然の猛威を感じさせられる出来事が多いように思います。
自然への畏敬の念。自然の中で生かされているということ。
忘れないようにしたいものです。
2月4日より公開。
公式サイト:http://www.oninikike.com/