2011-12-16 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
高校生の皆さんは、ブリューゲルの絵を
じっくりと見たことがありますか?
いつか本物を見てみたいと思うのですが、
その作品は画集で見ても、
どこか絵の中に迷い込むような不思議な迫力があります。
よく見ると、あれれ? ここで、こんなことしてる……
ぽつりぽつりとユーモラスな人が混ざっている、
おびただしい数の人、人、人…
細部まで緻密に描き込まれた壮大な絵画には、
16世紀・ネーデルランドを生きた
思想家でもあったブリューゲルからの
現代にも通じるメッセージが込められています。
そんなメッセージを映像の中に伝える映画が、
今週末から公開される『ブリューゲルの動く絵』。
そのタイトルどおり、この映画、絵が動くのです。
といっても、アニメーションではなく、実写。
絵画の世界が、その色合い、質感をそのままに、
生身の俳優が絵の中の人物を演じることで、再現されています。
絵を見ただけではわからなかった、
この人物は何をしている途中なのだろう?とか、
ここにある、この不思議なものは何の道具?とか―
そういった疑問の答えが、
当時の人々の生活の中に見てとれる。
まさに、絵の中に入り込む楽しみが味わえるのです。
(c) 2010, Angelus Silesius, TVP S.A
監督は、自身もアーティストである
ポーランドのレフ・マイェフスキ。
監督自身、幼い頃から
ブリューゲルの絵に魅せられてきたそうです。
この映画が再現しているのは、
1564年に描かれた作品『十字架を担うキリスト』ですが、
農村の風景、祭りに興じる人々、
いきいきとはしゃぎまわる子どもたち……
ブリューゲルの他の作品にも共通するエッセンスが、
この映画の中に凝縮されています。
監督は「ブリューゲルの声を聴きながら」作り上げたそう。
絵の世界さながらの映像に、監督の強い思いが感じられます。
(c) 2010, Angelus Silesius, TVP S.A
絵の中には、ブリューゲルの姿も見られ、
それゆえ、映画にもブリューゲルが登場します。
自身の生きる時代を憂いながら、その様子を
聖書のキリストの受難の物語と重ね、描こうとするブリューゲル。
ブリューゲルを演じるのは、
貫録たっぷりのルドガー・ハウアー。
ゴルゴダの丘へ向かう我が子キリストに、
心を痛める聖母マリアを演じるのは、シャーロット・ランプリング。
予備知識なしに見ても面白いですが、
ブリューゲルがどんな絵画を描いた画家だったのか、
予習してから見ると、面白さが倍増します。
冬のはじまり、1年のおわり、
16世紀に描かれた緻密な絵画の世界に迷い込んでみませんか?
17日より公開。
公式サイト:http://www.bruegel-ugokue.com/
*ちなみに、この映画の中に描かれている『十字架を担うキリスト』の解釈は、マイケル・フランシス・ギブソン著“The Mill and The Cross”をもとにしたもの。現在、通説とされる解釈とは、また少し違っているようで、映画を見た後、このあたりのことを調べてみるのも面白いです。