2011-09-15 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
主人公は、不本意な理由で
解雇されてしまった銀行員。
彼には重病の幼い娘がいて、
海外での治療を受けるため、大金を必要としている。
困った彼は、3人の仲間とともに、
自分をクビにした銀行への強盗計画をたてる――
…と、ここまで聞くと、
どこかで見たことのある映画のあらすじ。
と思う人もいるのではないでしょうか。
けれど、この映画、ちょっと珍しいのです。
どこが珍しいかといえば――この映画がモンゴル映画である、ということ。
モンゴルに映画があるの?と思う人もいるかもしれないけれど、
モンゴル映画の歴史は古く、そのはじまりは1920年代。
20年代のはじめに社会主義国として独立して以降、
旧ソ連の影響を受けてきたモンゴルでは、
映画も、ソ連の影響を受けながら、国策映画として発展してきたのです。
1990年頃に民主化され、
「モンゴル人民共和国」から「モンゴル国」になった後は、
映画も国から離れ、民主化当初は、実にさまざまな映画が作られました。
その後、経済的に不安定な状態が続き、
映画の制作がままならない時期もありましたが、
こんな現代的な映画が作られていることが、
今回、上映される『タタール大作戦』を見るとわかります。
日本でもこれまで、モンゴル映画が、
映画祭で上映されたり、劇場公開されることはありましたが、
今回のような現代的な娯楽作が上映されるのは、初めてのこと。
首都であるウランバートルの街を舞台にしていて、
モンゴル=草原というイメージの人は、
この点でも新鮮な驚きを味わえるのではないでしょうか。
映画「タタール大作戦」の冒頭は、
強盗に入った男たちの血まみれの画。
アメリカ映画でよく見かける場面ですが、
この映画、アメリカ映画とはちょっと違います。
形はアメリカ映画に似ていても、
描かれている人間像の端々にモンゴルのおおらかさが感じられる。
結末なんて、なんだか嬉しくなってしまうカラクリです。
計画はカッコよくギャング映画みたいでも、
実際に行動に移すとなると、かなりダメダメな強盗4人組。
極秘情報を隠す場所は、なんとマトリョーシカの中。
マトリョーシカといえば、小さな人形の中に、ひとまわり小さな人形が。
その人形の中に、そのまた小さな人形が入っている、木製のロシア人形。
取り出すのに、時間がかかるわっ! とツッコミが入りそうなおおらかさ。
ゆる~いギャグが、そこかしこに散りばめられているのも、
銀行強盗を描いたクライム・ムービーだというのに、
キャストの表情から、ほんわかとした健やかな雰囲気が滲み出ているのも、
ああ、このおおらかさ! と妙にハッピーな気分に。
当日は、監督と俳優さんも来日します。
上映は、18日(日) 10:00~
16日(金)から開催される「したまちコメディ映画祭」の中の1本です。
あなたもぜひ、このゆるゆるクライム・コメディで、
モンゴルを感じてみませんか?
ゆるゆると言いつつも、
映画『トランスフォーマー』のパロディシーンなんて、
ちょっとビックリのCG映像も登場します。
ゆるゆるなだけではない、モンゴル映画の今を楽しんでください。
第4回したまちコメディ映画祭
公式サイト:http://www.shitacome.jp/2011/index.shtml