2010-12-09 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
この小説を読んだのは高校生のときで、
その時の印象をいまでもよく覚えている。
うまく言葉にすることはできないが、
まだ知らぬ愛について、
そしてこの物語の全篇に漂う、死の匂いに圧倒されたのだと思う。
美しい物語だ。
死と背中合わせの、
途切れそうな、張り詰めた美しさがある。
透明で、儚げな。
それは、主人公ワタナベが思いをよせつづける直子そのもので、
この小説では、ワタナベも、彼と同じ大学に通うミドリも、亡くなったワタナベの友人キズキも、主な登場人物は皆カタカナなのに、直子だけが漢字で書かれている。
ワタナベの視点から語られるこの物語のなかで、
直子だけがくっきりとしている。
(C)2010「ノルウェイの森」村上春樹/アスミック・エース、フジテレビジョン
スクリーンの前で、高校生のあの時以来、
とても久しぶりに、この物語に触れた。
もちろん、登場人物のイメージは、読み手の数だけあるわけで、そこはまったく同じというわけにはいかないけれど、
それでも、高校生の頃、小説を読んだ時と同じ感触が心に残った。
鮮烈だったのは、ミドリで、
ワタナベや直子に比べ、ミドリは、
生身の人間が演じる際の自由度があるように思う。
だから、映画にどんなミドリがあらわれるのか、
楽しみにしている人も多いと思うのだけれど、
ずっと見ていたくなるようなミドリだった。
演じる水原希子は、今回が映画初出演だという。
(C)2010「ノルウェイの森」村上春樹/アスミック・エース、フジテレビジョン
この物語のタイトルにもなっているビートルズの『ノルウェイの森』は、
何らかの悩みを抱えた10代の人が、
立ち止まり惹かれてしまう何かをもった不思議な曲だと思う。
たとえ、その歌詞がわからないとしても、その曲に触れただけで。
30代になった今も、この曲を美しいと思うが、
あの頃のようにこの曲を聴くことは、もうできない。
その時期を過ぎたらまた違って見えてくる、若き日の切実な悩み。
そんなナイーブな季節の美しさがこの物語にはあるように思う。
その季節のただなかにいる高校生の皆さんは、
どんな風に感じるのでしょうか。
まず小説を読んでから、映画を見るのがオススメです。
監督のトラン・アン・ユンが、この物語をこよなく愛して映画にしているのがわかる。『夏至』(2000)でも彼と組んでいる名カメラマン、リー・ピンビンの映像も言うまでもなく美しいです。
(C)2010「ノルウェイの森」村上春樹/アスミック・エース、フジテレビジョン
今週末より公開。
公式サイト:http://www.norway-mori.com/index.html