2010-03-18 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
ちょうど本日18日から、
六本木ヒルズの映画館を会場に、フランス映画祭が始まります。
今年はフランスの人気監督が多数、来日。
ジェーン・バーキンが団長を務めるなど、豪華なのです。
昨年に続いて、見ごたえのある映画が多い。うれしいことです。
ここでは、上映作品の中から
いくつかの映画をピックアップしてみたいと思います。
気になる映画は、あるでしょうか―
『テルマ、ルイーズとシャンタル』
まずは、今年の団長であるジェーン・バーキンが主演する
『テルマ、ルイーズとシャンタル』。
映画に詳しいひとなら、ん?と思うはず。
『テルマ&ルイーズ』(91)という、
おとなの女ふたりが旅をする、アメリカのロードムービーがあるのです。
この映画、若き日のブラッド・ピットが
注目されるきっかけになった映画でもあります。
今回の『テルマ、ルイーズとシャンタル』は、
テルマとルイーズのふたりに、
個性の違うシャンタルというキャラクターが加わり、
3人の女性が、ぽんこつ車で旅をするロードムービー。
3人3様、ぜんぜんタイプが違うのです。
それでもお互いを認め合い、旅ができるのが大人の女の面白いところ。
若い恋人にふられたり、日常に閉塞感をおぼえたり……
それぞれにモヤモヤを抱えた3人が、
おとなをひと休みして、ハメをはずして、わがままする珍道中。
彼女たちが、その先に、たどりつくものは―?
ジェーン・バーキンって、
いくつの時も、その時ならではの美しさを放っている。
そして、いまが一番かっこいい。
エルメスのバッグ“バーキン”の由来にもなった女優さんだってこと、
高校生のみなさんは、知っていましたか?
『パリ20区、僕たちのクラス』
次にご紹介するのは、
『パリ20区、僕たちのクラス』。
いろいろな人種の生徒たちが在籍する
パリ20区にある高校の1クラスを舞台に、
ひとりの男の先生と、生徒たちとのやりとりを
まるでドキュメンタリーのようなリアルさで描いています。
どちらが上でも下でもなく、
ひとりの人と人として、
シンプルに生徒と心で向かい合う
先生の姿勢が、いいのです。
思い切り感情をぶつけてくる生徒たちも、かわいい。
それに誠心誠意、応える先生。
シンプルにそのやりとりを描いていくのですが、
本当に引き込まれます。うねりが生まれているのです。
人と人とのぶつかりあいが、とても豊かに描かれている。
そして、映画のありようが、かっこいい。
コスモポリタンなパリの、
そして様々な人種、民族の住む世界の縮図のような
今年のカンヌ映画祭でパルムドール(最高)賞に輝いた作品です。
『あの夏の子供たち』
『あの夏の子供たち』は、
女優としても活躍する、ミア・ハンセン=ラブが
監督・脚本を手掛けた長編2作目。1981年生まれの若い監督です。
20代の彼女の、
いまだからこそ描けた、新鮮な感触。みずみずしさ。
この映画の魅力は、そこに集約される気がします。
ティーンネイジャーの長女を筆頭に、
映画のプロデューサーとして活躍する父親のことが大好きな3人の幼い姉妹。
彼女たちにとっては、理想だった父親が、
ある日、仕事に行き詰まり、突然に自ら命を絶ってしまう。
その後、見えてくる父親の別の面、
そして父亡きあとの家族のありよう。
決してありがちな感傷で描いたりはしません。
母の強さ、姉妹の揺らぎ、そして成長。
みずみずしい感触の、きらきらとした映画です。
ラストの名曲「ケ・セラ・セラ」が心に響く、あたたかな夏の思い出―。
『オーケストラ!』
『オーケストラ!』は、これまた必見の作品。
ロシアのオーケストラ・ボリショイ交響楽団に
パリにあるシャトレ劇場から、
うちでコンサートをしてほしいという出演依頼が届きます。
それを担当者よりも先に見つけたのは、
かつての名指揮者で、現在は交響楽団の清掃員として働く主人公。
いつか再びタクトをふることを夢見る彼は、
トンデモナイ考えを思いつきます。
それは、
自らオーケストラの仲間を集めて、
ボリショイ交響楽団になりすまし、パリに赴くこと―!
ここまで聞くと、
ユーモアと愛情の詰まった
愉快な仲間の珍道中のような
映画がイメージされるかもしれません。
もちろん、それもハズレではないのですが、
この映画、それだけではないのです。
パリに出かける前、そしてやってきた後の、
ロシアのオーケストラの面々が巻き起こすドタバタの裏に、
心ふるわすドラマが隠されている。
しかも、その描写がさり気ない。
一瞬のシーンで、観客の心をつかんでしまう。
1980年に独裁政権下にあったルーマニアから亡命した経験をもつ
『約束の旅路』(05)のラドゥ・ミハイレアニュ監督が描く、
この映画の深み、そして人間味の豊かさ。
深い悲しみを知るひとだからこそ
描けたのだろうドラマに、心揺さぶられます。
『クリスマス・ストーリー』
そして、『クリスマス・ストーリー』。
名女優、カトリーヌ・ドヌーヴが母親を演じる
ある大家族の人間模様が描かれます。
母親の重病をきっかけに、
だんだんと紐解かれていく家族の過去。
そんなつもりはないのに、
行き違ってしまった親子や兄弟の関係―。
冒頭から映画の香りたっぷりで、その美しさにうっとり。
物語のキーになる次男役を演じた、
マチュー・アマルリックも今回、来日します。
このひと、『潜水服は蝶の夢を見る』(07)での名演も印象深い。
そのほか、今年のフランス映画祭では、
“フレンチ・パッション”というテーマで3本の映画も上映されます。
いずれも、おとなの男女が繰り広げるドラマ
『旅立ち』、『ハデウェイヒ』、そして『リグレット』。
『リグレット』は、トリュフォーの『隣の女』(81)を思わせる。
『倦怠』(98)のセドリック・カーン監督の作品です。
ほかにも、『アメリ』(01)の
ジャン=ピエール・ジュネ監督が描く『ミック・マック』など
幅広いジャンルで、さまざまな映画が上映されます。
ウェブサイトの「上映作品」のところで、
それぞれの予告編も見られます。
フランス映画祭の素敵なところは、
やはりフランスだけに、ゆったりと心を楽しむ姿勢。
来日ゲストとの交流も、上映後のトークショーだけでなく、
直接、ゲストと言葉を交わせるサイン会も開かれます。
映画を見終わったあと、
監督やキャストの波長を感じながら、
おはなしが聞けるのは、きっと面白い経験になるはず。
そのあとの映画の見方にも、予想外の変化が訪れるかもしれません。
映画がもたらす豊かな香り、楽しんでください。
18日~22日まで開催。
公式サイト:http://unifrance.jp/festival/