2008-01-23 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
先日、クリスティアン・ムンジウ監督が来日した。
聞きなれない名前だな、と思う人もいるかもしれないが、
今年のカンヌ国際映画祭でパルムドール(最高)賞を受賞したルーマニアの監督だ。今年で40歳。
インタビューさせて頂いたのだが、もう面白くて仕方なかった。
こんなに面白い!と思うことでお金を頂けるなんて、なんたる幸せかと思うくらいに。
別のメディアで取材に行ったので、
ここにその詳細を書けないのが非常に残念なのだが、
映画の中に真実を呼び込む撮影時のエピソードのひとつひとつは、
聞いていて、細胞が活性化していくのを感じるほど、面白かった。
何より、お話される監督自身の様子が、映画のプロモーションだとか仕事だとか役割だとか、そういう枠組から一切離れて、ただただ映画を作ることが楽しくて仕方がないということを物語っていて、こちらも聞いていてうれしくて仕方なかった。
そんな監督の話が、クライマックスに達した!と感じたのは、
1989年、チャウシェスク政権が終焉を迎えた日のことが話題にのぼったとき。
ムンジウ監督がパルムドールに輝いた映画『4ヶ月、3週と2日』は、
1987年、独裁政権下のルーマニアが舞台になっている。
当時、監督は学生だったそうだが、その日のことを語る彼の様子からは、まるで昨日のことを話すかのような臨場感と興奮にあふれていた。抑制された状態から開放されるというのは、こういうことなのだと、あらためて思わされた。
『4ヶ月、3週間と2日』は、共産主義体制下のルーマニアを描くシリーズの第1作として撮られた映画だ。この映画を観ると、この時代に居合わせなかった、異国に住む私たちが観ても、なんとも言葉にしがたい時代の空気がひしひしと伝わってくる。
人々の心の中に共通のもやもやとしたものを残しつつも、語られなかった時代。その思いが、映画にぶつけられた時、映画はものすごいエネルギーを放つ。
そういった意味で思い出されるのは、数年前の韓国映画だ。
たとえば、2003年に制作された『殺人の追憶』。
1980年代、軍事政権下の空気を
農村で起きた、ある未解決事件を題材に描いたこの作品は、やはりものすごいエネルギーでこの時代を伝えていた。
抑制が放たれ、語られなかったものが語られる時―その迫力は、ものすごい。
映画は、時代の声なんだなということをあらためて感じさせられる。
『4ヶ月、3週と2日』は、3月に公開される。
シンプルな描写で多くを描いた、ものすごくパワフルな時代の声。
この映画の引力を体感しないのは、惜しいと思う。
公式サイト:http://www.432film.jp/