2006-09-21 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
公開中の映画『出口のない海』。
戦争を描いた映画はこれまでも数多くつくられてきましたが、
この映画は、海の特攻隊「回天」に乗った若者たちの物語。
「回天」というのは、人ひとりが乗れる大きさの魚雷で、
一度、出発したら敵艦に激突するまで止まることができない。
乗ったら死ぬことがわかっていながら、それに乗ることになった若者たちを描いています。
市川海老蔵演じる並木も、伊勢谷友介扮する北も、
主人公の若者たちは、今の高校生の皆さんと同じように
野球部に所属していたり、陸上に打ち込んでいたりしている。
そんな中、世の中はしだいに戦争の色を濃くしていく。
学生たちが集まる喫茶店で、北が並木に言った言葉は、
「軍隊に志願しようかと思っているんだ。
どうせ赤紙(軍隊への召集令状)が来るなら、自分から志願した方が納得がいく」
皆さんが、
「どうせ受験しなくちゃいけないんだから、頑張って勉強することにするよ」
と言っているように、戦争に行くことを決める若者たち。そうするしかなかった若者たち。
大学か、就職か。
現在、社会のシステムに入っていく選択肢がそれであるように、
この時代の若者たちの未来に立ちはだかっていたものは、
戦争だったのだとこのシーンを見て思いました。ここだけでも胸が痛みました。
そんな彼らが海軍で回天に乗ることになるのだけれど、
訓練でこの兵器に乗り込んだとき、みんな、すごく動揺するのです。
あたりまえだと思う。
死ぬのが怖くない人なんていない。
並木は、誇りとか、そんなことは言わず、「死ぬのが怖かった」という言葉を残す。
ここに乗っているのは20歳そこそこの普通の若者なのだもの。
バカなこと言いながら笑っていた、自分の周りにもいるような20歳前後の若者が、
一度発進したら二度と出口のない兵器に乗り込み、自ら発進の装置を引く。
この映画は脚本がスムーズだから、知らぬ間に映画の中にすっと入っていて、
彼らの戸惑いが我がことのように伝わってくる。
そこに出てくる気のいい若者たちが、まるで自分の友人たちのような感覚になる。
だからこそ、彼らが突撃していくシーンは、言葉で言い表せないような気持ちになってしまった。
こんな尋常でない、恐ろしい兵器が世に生まれることのないように。
こんな思いをする若者たちが出ることのないように。
高校生の皆さんにも、観てもらいたいと思いました。
公開中。
公式サイト:http://www.deguchi-movie.jp