2005-07-28 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
公開から1ヶ月が経とうとしていますが、もう観た人も多いでしょうか?
SF作家、H.G.ウェルズの約100年前の小説をもとに、
スティーブン・スピルバーグが手がけた、この作品。
「大作だけれど、小さな、個人的な映画でもあるんだ」とトム・クルーズが語るとおり、
映画の軸となっているのは、ちょっと頼りない父親と子供たちの「家族」の物語。
「最初にこの映画が始まったときに、監督、脚本家と話をしたのです。
この映画のテーマは家族ということ。
人は親として何ができるのか、家族を守るためにどこまで何ができるのか、
それをテーマにこの映画を撮りました。
僕が演じるレイという男は、最初はあまりいい父親ではないし、
頭でものを考えるタイプでもない。その男が家族の危機に直面したとき、
果たして、立ち上がって、親であるテストに耐えられるだろうか…
それがこの映画の核心になるのです」
と語ったのは、来日会見にあらわれたトム・クルーズ。

これまでも、『未知との遭遇』『E.T.』などで宇宙人との交流を描いてきたスピルバーグ。
そこに登場した、あたたかな宇宙人像とは打って変わって、
今回登場するのは、人間を襲う、とにかく恐ろしい存在。
描かれている宇宙人像が、これまでの作品とまったく違った印象です。
これについては、
「いままでは空を見上げると、美しさを見ました。
でも、最近は空を見上げても空気の中に緊張感が走っている。
70年代、80年代にはこの『宇宙戦争』は作らなかったと思うのです。
その時代には『未知との遭遇』や『E.T.』という映画がふさわしかった。
その状況、時代の雰囲気に合ったものを作る映画作家として、
いまの時代に合っているのは『宇宙戦争』だと思ったのです」とスピルバーグ。
どこにでもあるような、家族の日常風景からこの映画は始まります。
しかし、そんな何気ない日常を突然の出来事が襲います。
空から無数の閃光が差し込み、地中から得体の知れない巨大生物があらわれ、
人々を襲いだす……一瞬にしてパニックに陥った街を車で移動するなか、
恐怖におののく幼い娘が、父親に問いかけます。
「テロなの?」
この映画に描かれている、突然の惨劇は、どうしてもあの事件を思わせます。
「H.G.ウェルズがこの映画の原作小説(映画と同名の『WAR OF THE WORLDS』)を書いた19世紀末も、オーソン・ウェルズがこの小説をもとにラジオドラマを放送した1930年代後半も、ジョージ・パルがこの小説を映画化した1953年頃も、何か不安を抱えている時代ということで共通しています。すべて、そういう時代に発表されているのです。原作が書かれた19世紀末は、イギリスの植民地支配が続いていた時代。オーソン・ウェルズのラジオドラマで「火星人が襲ってきた」と流したら、皆が本気にしてしまった1930年代後半は、第二次世界大戦直前でヒトラーが台頭してきた頃。ジョージ・パルの1950年代初頭は、冷戦が始まる時代。そして、今回の『宇宙戦争』は9・11の後なのです」とスピルバーグ。
劇中に登場する、襲い来る謎の生物に向かって、
“「最強の国アメリカ」の危機なのだからと「武力」で立ち向かおうとする男”の存在も、
トム・クルーズ演じる父親レイの息子が、
父親が止めるのも聞かず、混乱のさなかにとった行動も、
9.11後のアメリカがとった政策を思わせる……
『宇宙戦争』の一見、シンプルに見える物語は、
いまの時代に伝えなければならないことを伝えるという、
スピルバーグの痛切なメッセージがストレートに前面に立った形なのかもしれません。
「そんな風に皆さんにいろいろ考えさせられる作品を、
娯楽作品として提供できるのがうれしい。
楽しくて怖くてエキサイティングな夏の大作として製作しましたが、
いろいろ考えさせられる内容が含まれていることも嬉しいことです」
とプロデューサーのキャスリーン・ケネディ。
『宇宙戦争』の公式サイト:http://www.uchu-sensou.jp