2005-07-07 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
これは、韓国で大ヒットした映画。
フルマラソンを完走した自閉症の青年の実話をもとに描かれた物語です。
自閉症である19歳の青年チョウォンの母親の願いは、
「この子よりも1日でも長く生きること」。
彼のことが心配な母親は、彼のことを自分のもとから離せません。
ところが、そんな二人に大きな変化が訪れます。
そのきっかけを作ったのは、やる気のないマラソン・コーチの男。
彼は、飲酒運転で警察につかまり、社会奉仕の名目でチョウォンの通う学校にやってきた、マラソンの元スター選手。かつて、ボストン・マラソンで優勝した経歴をもっています。
いまやお腹のお肉もたぷたぷ、体から発している空気もだらしな〜い、
やる気のない彼のトレーニングを受けることになったチョウォン。
それまでずっと母親と一緒だった彼にとって、
コーチとふたりの時間は、初めての体験だらけ。
トレーニングが始まっても相変わらず、やる気のないコーチと、
チョウォンとの間には、微妙な空気が漂います。
けれど、小さな出来事の数々をきっかけに、
それがやがてあたたかな関係に変わっていきます。
そのきっかけのひとつが、プラム。
チョウォンは毎日、母親の作ったお弁当をもってくるのですが、
そのなかには、必ず、プラムが2個入っています。
おいしそうにそれを頬張るチョウォン。
おいしそうだな〜と思いながら、それを見るコーチ。
けれど、チョウォンはコーチにプラムをわけてあげません。
翌日、コーチはチョウォンがグランドを走っている最中に、
彼のスポーツバッグから、おなじみのプラムをそーっと拝借します。
それに気づいたチョウォンが、次の練習中にとった行動とは……。
このシーン、好きです。笑ってしまいます。
ずっと母親の保護下にいたチョウォンにとって、
コーチは、自分を保護の対象として見なかった初めての人。
彼との思わず笑ってしまう、1対1の人間としての数々のやりとりを経て、
チョウォンは人と人との間で大事なことを学んでいきます。
そして、やる気のないコーチも、
彼と一緒にいることで、次第に人生へのやる気を取り戻していきます。
この3人が影響しあい、互いに成長していく過程を描いた物語。
これは、普遍的な、親子の、そして人間関係の物語でもあります。

チョウォンを演じるのは、『ラブストーリー』(2003)のチョ・スンウ。
そして、彼の母親を熱演するのは、数々のTVドラマに出演するキム・ミスク。
「悲しみの涙」ではない、あたたかな涙が流れる映画でした。