2005-06-23 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
タイトルもいいですよね、この映画。
試写状が届いてから、ずっと楽しみにしていたのですが、観たら本当によかった。
物語に登場する人たちは皆、これを読んで下さっている高校生の皆さんのご両親か、
それより少し上の世代の人たちなのだけれど、
この映画で描かれているのは、
社会の中でいろいろな経験をして外側が変わっていったとしても、
たまねぎの芯みたいに、その中心では決して変わらない
「歳をとらない気持ち」→ごまかしようのない恋心
なので、たぶん10代の皆さんの胸にも響くものがあるのではないか…と思うのです。
しかも、田中裕子演じる主人公の大場美奈子は、50歳の独身女性なのですが、
清く正しい女子中学生みたいな風情の、なんか白いハイソックスな面影を残した人だから。
高校生の頃、こういう女性を見たら、
「ちょっと地味だな」とか、そんな風に思うだけだったかもしれません。
もう少し華やかな女性らしさに憧れを感じていたから。
でも、いまはこの美奈子さんの強さが、若輩モノの私でも少しはわかる。
そんな、ちょっと大人の映画です。
坂の多い長崎の町で生まれ育った美奈子は、大人になってからもこの町を出ず、
50歳になったいまもひとり、この町で牛乳配達とスーパーのレジをして暮らしています。
彼女が毎朝、牛乳を届けるたくさんの家のうち、
決して牛乳を飲まないのに、配達を頼み続けている家がある−
その家には、重病で余命いくばくもない、美奈子と同世代の妻と
その妻を献身的に介護する、市役所勤めの夫が暮らしています。
「毎朝この時間に決まって、牛乳配達の人がくるのよね」と何気なく問いかける妻に、
やさしい雰囲気をただよわせながら、何もこたえない夫。
この様子に、妻は夫・槐多の心に住み続ける、自分とは別の女性が、
牛乳配達の美奈子であることを察するのです。
…といっても、これはよくあるドロドロの三角関係のドラマではなく、
もっと真摯で、ピュアで、人間的なお話です。
やがて、美奈子と槐多が、同じ町の中で互いへの想いを秘めたまま
30年以上もの時を過ごしてきたことが明らかになっていきます。

田中裕子、岸辺一徳、仁科亜季子…それぞれの演技が、すばらしい。
映画の後半近く、橋の上のとても大切なシーンがあるのですが、
バックに流れる音楽がなくても充分心動かされるだろう、強い演技にハっとさせられます。
田中裕子の巧さはもちろんのこと、
岸辺一徳の、真正面から描かれることのあまりない、格好よさにもググっときます。
作品自体は“男性的ロマンチック”な終わり方をしますが、
そこにいくまでの過程……物語を形作る美奈子の堅実な足取りが胸に響きました。
美奈子の日常描写がいいのです。
うわついたところがなくて、とても正直。
冒頭、舞台になっている、坂の多い長崎の町が映し出されますが、
このシーンにただよう日常感が、この映画の誠実さを象徴している気がします。
おじさん・おばさんと呼ばれる年齢になっても、
恋心は、おじさん・おばさんにはなれない。
恋愛は究極の1人称。
本人たちはこれ以上ないほどの真剣でも、傍から見ると滑稽に見えたりもするもの。
ここに描かれているのは、不器用で、とてもいとおしい恋の物語。
恋する高校生の皆さん、必見です。
公式サイト:http://www.eiga-dokusho.com/
7月2日より渋谷ユーロスペースにて公開。