2005-06-16 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
「ティム・バートン監督の『バットマン』もすばらしいけれど、コミックに忠実なものではなかったから、原作であるコミックを自分なりに解釈して、ティム・バートンとは違う『バットマン』を作りたかった。それを新たなきもちで観てほしい」
と言うのは、今回、監督をつとめたクリストファー・ノーラン。
これは、ティム・バートン監督による過去の作品を意識するかと訊かれた際のコメント。
クリストファー・ノーランといえば、
10分間しか維持することのできない記憶をたよりに、主人公が少しずつ時間を遡りながら、
殺人事件の犯人をつきとめていくサスペンス『メメント』(2000)を手がけた監督。
「いろいろなヒーローがいるが、バットマンは、いちばん興味深いヒーローだと思う。それは、スーパーマンのような超人的能力を持たない、普通の人間だから。そして、彼は自分の中にネガティブな怒りをもっていて、それをポジティブなものに変えて戦う。この点が人間的で、皆が共感できるところだと思う」。
このコメントのとおり、バットマンが他の多くのヒーローと異なる点は、
彼が空を飛べたり、怪力が出たりする超人的能力を持っているわけではないということ。
バットマンとして戦う主人公ブルース・ウェインは、
なぜ「バットマン」として戦うことになったのか……
過去に辛い経験をした人間が、それを克服し、
自分の中のネガティブなものをポジティブなものに変えていこうとする葛藤。
バットマンモービルやバットマンの道具の数々が生みだされる過程とともに、
そんな人間的でリアルなバットマンの背景が描かれているのが、今回の『バットマン』。
新たなバットマン像を体現したのは、
『アメリカン・サイコ』(2000)のクリスチャン・ベール。
「過去に作られた『バットマン』も見たが、そこで描かれていたバットマンは僕にとって満足のいく、興味深いものではなかった。過去の『バットマン』シリーズを意識せず、原作から得られるもので新たなバットマン像を作りあげた。バットマンは、自分の中にダークな「怒り」を抱えたヒーローだけれど、その部分を強調しすぎると「悪」になってしまう。そのバランスを守って演じることが重要だった。これはバットマン誕生の物語だから、過去のバットマン像を心の中から閉め出して、新しいバットマンを作り出した」。

今回の『バットマン』、脇を固める俳優たちも、錚々たる面々だ。
これは、クリストファー・ノーランが、
マーロン・ブランドやジーン・ハックマンなど華やかな顔が揃う
リチャード・ドナー監督の『スーパーマン』(1978)を参考にした結果なのだという。
まず、バットマン誕生に欠かせないキャラクターを演じるのが、
『ミリオンダラー・ベイビー』(2004)での
味わい深い演技が記憶に新しいモーガン・フリーマン。
「バットマンは、歳をとるほどに好きになったヒーロー。
超人的能力がないからこそ、自分自身で努力して強くなって戦っている。
そこがバットマンの好きなところ」。
そして、バットマンとして戦う主人公ブルース・ウェインを近くから見守る存在に、
『サイダーハウス・ルール』(1999)のマイケル・ケイン。
どんな窮地でもユーモアを失わない魅力的なキャラクターを見せてくれる。
また、『スター・ウォーズ』シリーズのクワイ=ガン・ジン役、
リーアム・ニーソンが意外な役柄で登場しているのも、気になるところ。
「私は少年時代をアイルランドで過ごしたので、
バットマンは私にとってヒーローというより、ちょっと怖い存在だった」
というリーアム・ニーソンが彼が今回の役を引き受けたのは
「こういうタイプの役を演じる機会があまりなく、その機会だと思ったから」なのだそう。
そして、悪役を演じるのは渡辺謙。
『ラスト・サムライ』での演技をクリストファー・ノーランが観たことが、
今回の起用につながった。
「『ラスト・サムライ』のときは日本を背負って来ている感覚があったが、今回はひとりの俳優として来られた感じがあった。『バットマン』はダークな世界。正義のヒーローは白のイメージだが、バットマンは黒く、闇のダークな世界。人間の誰も持っている闇の部分がそれぞれのキャラクターに反映されている」。

「主人公が何かにとりつかれているところに魅力を感じた。それは健康的なことではないかもしれないけれど。子供の頃に経験したことが原因で、彼の中には怒りがある。それを別人になって解決していこうという執念、そこに惹かれた」とクリストファー・ノーラン。
バットマン・スーツは代を追うごとに改良が施され、重量も軽くなっていったそうだが、
「あれを着ると汗をかくんだ」。
手袋に空気を抜く穴が開いているそうなのだが、
撮影の合間にはその穴から、水道のように、汗が流れ出るほどだったという。
ブルース・ウェインという生身の男のドラマ、そしてスカっとするアクション。
大きなスクリーン、大音量でアクション映画を観る面白さ、楽しんでください。
今週末より公開。
公式サイト:http://www.batman-begins.jp