2005-06-09 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
いろいろな監督や俳優さんたちの来日記者会見を取材すると、
毎回、毎回、ハっとさせられるコメントに出会います。
たとえば、『shall we ダンス?』でこの春に来日したリチャード・ギア。
“しあわせに飽きたら、ダンスを踊ろう”という
この映画の日本公開時のキャッチコピーをもとに質問された彼が言ったのは、
「しあわせに飽きたりはしない。
大人は飽きることを知っているけれど、
子供は普通のコップひとつでもずっと遊ぶことができる」。
いまは様々な娯楽があふれていて、お金を払ってどこかに出かけるとか、
何か名前のついた遊びのことしか、遊びと呼ばない傾向があると思うのだけれど、
このコメント、本当にそうだよなあ〜と、しみじみ思わされたものでした。
こういう、子供がもっているような、心の元気な純粋さ。
主人公が子供であれ、大人であれ、
そのことを描いた映画は、本当にいろいろあると思うのですが、
ひとつ思い出すのは、
第75回アカデミー賞外国語映画賞に輝いた『名のなきアフリカの地で』という作品。
この映画には、ナチスの迫害を逃れてドイツからアフリカの地へ移り住んだ、
父親と母親と幼い娘、3人の家族が現地の生活に次第に慣れていく様子が、
雄大な土地を舞台に描かれています。
娘のレギーナは、ドイツの暮らしとまったく異なるアフリカでの生活に、
何の壁もつくらず、偏見ももたず、すなおに飛び込んでいきます。
この土地の人にも、食べ物にも、自然にも……新たにやってきた、
自然豊かなこの土地をすなおに感じ、そこにいることを心から楽しんでいます。
けれど対照的に、
彼女の母親は、ドイツでの上流社会の生活でしていたこと、使っていたもの、
それらすべてのことが、この地で通用しないことに苛立ちを覚えます。
「ドイツの生活はよかったわ」
アフリカにやってきてからも、彼女はそれ以外の価値観を受け入れようとしません。
自分自身の感覚や考えでシンプルに生きるレギーナと、
社会で賞賛されるもので成り立っているお母さん。
このお母さんが、映画が進むに連れて、どんな風に変化していくのか……
ここも素敵なところです。
とりたてて予定を立てなくても、お金を使わなくても、
目の前の何かを心から楽しめるきもち。失いたくないものです。