2005-04-28 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
これは、大切なともだちにそっと教えたくなるような映画。
心の奥の方がくすぐられるような、大人のかわいさ。
人生の悲哀と希望−。
舞台は、ウルグアイの静かな町にある、さびれた靴下工場。
経営者のハコボは、毎朝決まった時間に工場にやってくる。
そこには、いつも、早めに到着した女性従業員のマルタがいる。
まるでデジャビュのように、
ハコボはおんなじ仕草で、重たいシャッターを押し上げ、その横にマルタがいて、
ふたりは毎日、毎日、同じシルエットをつくって、工場に入ってくる。
「ブウーン」
蛍光灯の明かりをつけたときに鳴り出すこの音とともに、
ハコボとマルタの毎日が始まる。
来る日も、来る日も、ふたりは特に会話をすることもなく、黙々と仕事をしつづける。
そんな二人の日常に、ある変化が訪れる。
1年前に亡くなった母親の墓石の建立式のため、
ブラジルで靴下工場を経営する、
長い間、疎遠になっていた弟エルマンが、兄ハコボのもとに帰ってくるというのだ。
ハコボは、マルタに頼みごとをする。
「弟の滞在中だけ、妻のふりをしてくれないか−」。
こうして、ハコボとマルタ、そしてエルマンの不思議な数日間が幕を開けた……。

昨年の東京国際映画祭のコンペティション部門でグランプリに輝いた
ウルグアイ出身の当時30歳の男性コンビ、
フアン・パブロ・レベージャ&パブロ・ストールの作品。
「僕らが観ていて腹が立つのは、作り手が観客を馬鹿にしているような映画です。
あからさまに情報過多で説明的すぎたり、音で盛り上げたり……
そういった、特に若者向けの映画には、ふたりでいつも怒っていました。
この映画のようなタッチは、ハリウッド映画のそれとは少しずれているのでしょうけれ
ど、僕にしてみれば、まずそこからスタートしたかった」
という二人が描き出したのは、「予定調和」とは無縁の世界。
いったい、どんな結末を迎えるのか−一瞬、一瞬の行き先がまるでわからぬまま、
そこには、実在の人物の日常を見ているようなリアリティがただよう。
「たとえば、登場人物がほとんど無言で、何かを話すとしても、それは物語の説明ではなく、ストーリーとまったく関係ないことを喋っている。それを観た観客の人たちに、この人たちはだからこうなのかとか、なるほどね、とかいろいろ思ってもらえる……考えさせるつもりはないけれど、僕は観客の人たちに感じてほしかったのです。ジグソーパズルを組み合わせていくように。こちらでひとつ、ふたつ抜かしてあるピースを、皆さんの方で何なのか考えて、自分なりに感じてほしかった。僕は観客を信じました」
ちょっとだけユーモラスで、ちょっとだけ哀しい、愛すべき物語。
どうしてタイトルが『ウイスキー』なのか、それは映画を観てのお楽しみ。
29日(金)より公開
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/whisky/