2005-04-07 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
思わずハっとして、透明なその声に魅了されてしまった。
映画『コーラス』で美声を聴かせるのは、当時13歳だったジャン=バティスト・モニエ。
この映画が、彼のデビュー作にあたる。
映画のキャスティングのため、サン・マルク少年少女合唱団を訪れた監督の目に留まり、出演が決まった。
アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたことでも話題になった『コーラス』は、
フランスで大ヒットを記録し、彼はフランス中に顔を知られることとなった。
女の子たちからはアイドル的な騒がれ方もしているという。
そんな彼の映画を観た感想が、新鮮だ。
「不思議な感じでした。自分の声をいままで聴いたことがなかったので、ショックに近かったです。僕、あまり自分の声を聴くのは好きではないのですが、それだけでなく、大きなスクリーンに自分が映っていて、演技しているのを見て、すごくびっくりしました。映画に出ているのは、僕だけれど僕じゃないのです。でも何よりも、自分の声を聴いて驚いたことが一番です」。
将来のことについて訊かれると、
「映画で演技を経験して、演技も続けたいけれど、歌も歌い続けるつもりです。でも、あまり先の事は、計画しないようにしています。自然なコースを歩みたいです。多分、歌うことより演技の道を選ぶことになると思います。それに最近、声変わりもしたし、先のことはどうなるか僕にも分からないので、様子をみるしかありません」と、いたって冷静。急激な環境の変化にも動じないまっとうさが、きもちいなあ…と思った。

ジャン=バティスト・モニエ
映画『コーラス』の舞台は、第二次世界大戦直後のフランス。戦争によって荒廃した人々の心。その影響をもろに受けてしまう子供たち。そんな時代、親を失った子供や問題を抱えた子供たちが共同生活している寄宿舎に、失業中の音楽教師マチューがやってくる。問題を起こす子供たちに厳罰で対する校長。学校には、殺伐とした空気がただよっていた。そんななか、マチューは、子供たちを罰することなく、大きく受け入れていく。彼が子供たちに教えたのは、歌うこと。子供たちは、コーラスの響き、歌うことのすばらしさに目覚め、輝きはじめる……。

音楽家になる夢をもちながらも夢かなわなかったマチューを演じるのは、監督、脚本を手がけ、自ら出演した『バティニョールおじさん』(2002)のジェラール・ジュニョ。自身の人生の中で印象に残っている先生の思い出を問われた彼は、
「誰でも人生の中でひとりやふたり、そのような先生と出会っているのではないでしょうか?その人が人生の鍵をあけてくれる事もあるのです。私の場合は、ボーイスカウトのリーダーがそのような先生でした。彼が誰よりも最初に、私の演技力、才能を認めてくれ、何度も演技するチャンスを与えてくれました。でも、いまになってみると彼の名前を思い出せません。なぜ覚えていないのでしょう? この映画でも、主人公が先生の名前を思い出せません。恩知らずのようでもありますが、子供の頃の話だから忘れてしまうものですね」
名前も思い出されない音楽教師、マチュー。
でも、彼は子供たちの人生にかけがえのない灯をともす。
「この映画の役作りで難しいと思ったのは、実に平凡な人間(音楽教師のマチュー)を、特別な人物として描くことです。私自身、平凡な人間なので、平凡なキャラクターを輝かせることに惹かれるのでしょうね。フランスで私は、平凡な、平均的な人だと思われています。普通の人。体つきも人並み、外出しても目立つ事はありません。Mr.Everybodyですね。そのMr.Everybodyをスペシャルな存在にすること。私はそれを演技の中でやろうとしています」。

マチューを演じるジェラール・ジュニョ
製作には、『ニュー・シネマ・パラダイス』(1989)で映画監督になった主人公サルヴァトーレオを演じたジャック・ペラン。『コーラス』にも、印象的な役で出演している。
4月9日(土)より公開。
公式サイト:
http://www.herald.co.jp/official/chorus/index.shtml