2005-01-27 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
この映画、とても興味深い。
1985年にアンデス山脈の前人未到の山に臨んだ、ふたりの登山家に起きた極限状態を、
本人たちの証言を交えながら、映像化したドキュメンタリー。
登頂に成功したふたり、ジョーとサイモンは下山途中に嵐に見舞われる。
その中で、ジョーが骨折。サイモンも必死に彼を助けようとするが、
ジョーはバランスを崩し、絶対絶命の状態に。
このままでは、ふたりとも命を失ってしまう…そんな状態でサイモンがとった行動とは−。

映画が始まると、そこにあるのは、ただひたすら広がる、まっしろな世界。
いたって、シンプルな世界。
そして、死んでしまうかもしれないという、生の恐怖。
死と背中合わせの状態に陥ったジョーが、言う。
「頭の中で、特に好きでもない流行りの音楽が繰り返される。
これが、人生最後の音楽になるなんて…」。
人生の局面だというのに、あまりに日常的、あまりに陳腐。
この映画には、ドラマチックな演出はない。
極限状態に立った人間のリアルな判断や感覚が、ただ、そこにある。
氷点下の激しい寒さの中、極限の状態のもとで、
痛みを抱えながらも、ほとんど惰性のように生きることに向かう人間の本能。
激しく長い渇きのあとで、湧き出る水を心ゆくまで飲んだときの感覚。
感覚がなくなる程に冷え切った体から出た、自分の尿のあたたかさ。
そして、人と人とのふれあい。温度。ぬくもり。
…「生きる」ということが、言葉すくなに、圧倒的な映像で伝わってくる。
原題は“TOUCHING THE VOID”。
観ているうちに、五感が呼び覚まされて、
都会生活のなかで鈍りがちな、イキモノの感覚を思い出すような作品。
2月11日より公開。
公式ホームページ:http://www.unmei-zairu.com