2004-11-25 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
先月、このコーナーでもご紹介した東京国際映画祭。
来る日も来る日も、会場に足を運んだこの数日間。
毎日、新たな発見があって、いろいろな刺激を受けた日々でした。
印象的だったのは、コンペティション部門と
アジアの旬の映画を集めた「アジアの風」の部門。
今年のコンペティションは、『男はつらいよ』シリーズの山田洋次監督をはじめ、
韓国のイ・チャンドン監督やインドのシェカール・カプール監督と審査員もすばらしかったのですが、作品も新鮮。そのなか、グランプリに輝いたのは『ウィスキー』という作品。
授賞式で自分たちの名前を呼ばれたとき、
ウルグアイ出身の30歳の監督フアン・パブロ・レベージャと、
朴訥とした初老の主演俳優アンドレス・パソスが涙を流して喜んでいる様子は、
見ていて胸の熱くなる、ちょっといい場面でした。

右が、監督のフアン・パブロ・レベージャ。左がアンドレス・パソス。
この俳優さんのたたずまいを観ただけで、この映画、観てみたくなりませんか?
来春、劇場公開されます。
「受賞の瞬間に、頭が真っ白になってしまって、
先に帰国した共同監督のパブロ・ストール(彼も30歳)について言うのをすっかり忘れてしまいました。私ひとりで作ったわけではないので、彼のことも覚えていてください」
と受賞後の会見での監督の言葉も、微笑ましい。
続いて挨拶した、主演のアンドレス・パソスさんも、
「いま雲の上にいるような気持ちで、
でも、たぶん自分のいいたいことは監督が言ってくれたのだろうと思うのですが、
実は、英語(監督は英語で挨拶をした)も日本語もわからないので、
監督が何を言ったのかわからないのですが、きもちは同じだろうと思います」。
『ウィスキー』の舞台は、ウルグアイのさびれた町の小さなストッキング工場。
冴えない暮らしを送る初老の経営者ハコボは、生真面目な助手の女性マルタと
たいした言葉も交わすことなく、淡々と作業をする毎日。
しかし、そんな日々にある変化が訪れる。
長年海外に住み、すっかり疎遠になっていたハコボの弟が帰国するというのだ。
意外にも、ハコボはマルタに、弟の滞在中だけ、妻のふりをしてほしいと頼むのだが……。

「台詞や感情表現を極力おさえたスタイルで描いたのは?」という質問に
監督のフアン・パブロ・レベージャは、
「僕は映画の学校を卒業したわけではありません。もうひとりの監督もそうです。
現場で映画づくりを監督として見守りながら、映画を学んできました。
僕らが観ていて腹が立つのは、作り手が観客を馬鹿にしている映画です。
あからさまに情報過多で、音で盛り上げたり、これでもか、これでもかと説明的だったり……そういった、特に若者向けの映画には、ふたりでいつも怒っていました。
この映画のようなタッチは、ハリウッド映画のそれとは少しずれているのでしょうけれど、僕にしてみれば、まずそこからスタートしたかった。
たとえば、登場人物がほとんど無言で、それは説明ではなくて、まったく関係ないことを喋っている。それを観て、観客の人たちには、この人たちはだからこうなのかとか、なるほどね、とかいろいろ思ってもらえる……僕は観客に考えさせるつもりはないけれど、感じてほしかったのです。ジグソーパズルを組み合わせていって、ピースをひとつ、ふたつを抜かして、皆さんの方でそのピースを考えて、自分なりに感じてほしかった。僕は観客を信じました。
ここでお話していることも、本来ならば、喋ることではなく、映画のようにキャラクターで伝えられることなのですが、いまこの場で僕は映画のキャラクターのように伝えることはできないので、言葉にしないと伝えられないので、このようにお話しました」。
コンペ作品の審査は、4時間に及んだといいます。
「この映画祭の趣旨として、
芸術性と娯楽性を兼ね備えた映画を選ぶということを聞いたとき、
今回の作業は、とても難しいものになるのではないかと直感しました。
そして、案の定、最後の討論では、わたしたちは芸術性の高い作品、娯楽性の高い作品、
その両方について話し合うことになりました。
そして、審査のなかで芸術性と娯楽性を天秤にかけるようにして、どちらがよいかと討論するのではなく、映画を愛する私たちが、これからの映画の未来を考えて、心に響く映画を選ぼうということになりました。私たちの心の中にどんな価値があるのか、未来があるのか、その点を応援していこう、そして心の突き動かされるままに、これがいいと思った作品に賞を与えましょうということになりました。
そして、今回、最終的には『ウィスキー』という作品にグランプリを与えることになったわけですが、これこそが、まさに映画の真の発見だったと思っています。それは東京国際映画祭に関係した人のみならず、世界の映画人に自尊心を与える結果だったと思います」と、イ・チャンドン監督。
この映画は、東京グランプリのほか、最優秀主演女優賞も受賞しています。
「主演女優賞は文句なくこの人だったのだけれど、本来ならば、6つの賞は6つの作品に出したかった。この作品に限っては、どうしても作品賞であり、主演女優賞である、それ以外にないだろうという結論に達しました」と、審査員長の山田洋次監督。
最後に監督自ら、
「いまウルグアイでは選挙が行われています。
この選挙は100年間変わらなかったものが変わるかもしれない…そのくらい重要な選挙なのです。皆さん、この機会に注目してください。
そして、僕にとしては、母国でそういう大変なことが起きているときに、このような賞を頂いたということで、とても不思議なものを感じています。
どうも、ありがとうございました!」
今年のカンヌ国際映画祭でもオリジナル視点賞、国際批評家連盟賞を受賞した作品。
来春の公開を楽しみにしていてください。
ちなみに、最優秀監督賞、観客賞に輝いた韓国の作品『大統領の理髪師』、
審査員特別賞の『ココシリ:マウンテン・パトロール』も来年、劇場公開されます。
東京国際映画祭「アジアの風」部門については、来週お届けします。
東京国際映画祭 公式サイト:http://www.tiff-jp.net/